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足利事件 - DNA鑑定と自白

雨竜沼湿原から帰ってから、たった2、3分の診察を受けに移動も含めて3時間以上もかけて脳外科へ行き、ゆっくり休む間もなく北大へ出かけた。というのは、「足利事件-DNA鑑定と自白」(PDF)という講演会があったから。

開演5分前に会場へ入ると、ほぼ満席。教室は学生で溢れかえっていた。混んでて立ち見は嫌だけど、今どきの北大生でも足利事件にちゃんと関心を持っていることに感心した。けれども、あからさまに自分たち以外の客を嫌がっている閉鎖的な北大法学部生には呆れた。そんな学生の横の空いた席に座った。

足利事件弁護団の佐藤博史弁護士の話は熱かった。事件の捜査や裁判の間違ったやり方に対して怒りを学生に向けてあらわにしていた。菅家利和さんが無実だと真実を語っている瞬間を誰もが見逃していたことに強く非難していた。法曹を目指す学生たちに、司法試験のような知識や技術ではなく、真実を見抜く力を身につけるようにとうったえていた。

足利事件については、新聞記事で報道されていることを少し知っているくらいで講演会にのぞんだ。そのため、今回初めて知ることがいくつかあった。足利事件というのは1990年の真美ちゃん事件を指すらしいけど、他の3つの事件についても容疑者として仕立て上げられようとしていたようだ。警察にはそれらの事件の真犯人を見つけ出す気はなかったんだろうか。

複数の小児性愛者の弁護を担当したことがある佐藤さんには、警察が1年間菅家さんを尾行した報告から、菅家さんが犯人ではないという確信があったそうだ。けれども、警察は菅家さんのゴミをあさってティッシュペーパーを押収し、被害者の下着に着いた犯人の精液とDNA鑑定をした。当時のDNA鑑定の精度は非常に低く、足利市とその周辺地域には700人以上も犯人と同じ型がいることになるほどだった。それなのに警察がDNA鑑定に固執したのは、当時、DNA鑑定を導入する予算を検討しているときで、警察庁は足利事件を予算獲得のために利用したらしい。

一審を担当した女性弁護士は、そもそも菅家さんの無実を信じていたわけではなくて、DNA鑑定の証拠として不十分な点を突いて無罪を得ることしか考えていなかったそうだ。その結果、菅家さんが無実をうったえていた家族への手紙が公判で取り上げられてから、菅家さんは自白を翻して一転して否認したにもかかわらず、真実を語っていることを弁護士ですら見逃してしまった。一方で、他の2つの事件の自白は信用できないと検察も不起訴にした。つまり、DNA鑑定だけが足利事件の証拠だったようだ。

無期懲役の判決を受けた後、佐藤さんが弁護を担当することになったけれど、東京高裁は控訴を棄却し、高裁の裁判官ですら真実を見る目を持っていなかったことが分かった。さらに、その後、弁護団によるDNA再鑑定と証拠の保管替えの請求を最高裁は無視した。実は、はじめにDNA鑑定を行った科警研さえ、1993年にはすでに誤りを認めていた。その後に弁護団が密かに入手した菅家さんの毛髪を用いてDNA再鑑定を行った結果、菅家さんの型と科警研が調べた犯人の型とが異なることが判明した。にもかかわらず、最高裁、宇都宮地裁は再鑑定もしないでこの結果を無視した。

犯人ではない菅家さんの自白は虚偽であるわけで、実際に、現場に足を運んだ佐藤さんにはすぐに分かったそうだ。自白には不自然で不合理な点がいくつもあるのに、捜査にあたっていた警察が気付かないことはおかしい。気付いていたとしても、DNA鑑定のせいでまともな判断ができなくなっていたようだ。

DNA再鑑定の請求を無視した、足利事件の最高裁調査感を務めた後藤真理子裁判官は、自らDNA型鑑定は、その初期において、「究極の鑑定」として決定的な証拠であるかのような誤解を与えていた可能性がある。と述べているそうだ。暴走したDNA鑑定をさして、佐藤さんは「ジュラシック・パーク」を例に挙げた。この映画で最初に恐竜に食べられたのは、実は弁護士だったそうだ。そして、足利事件でDNA鑑定は恐竜だったと語った。人間は科学技術をコントロールできなかった。

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去年のクリスマスイブに、東京高裁でDNA再鑑定の命令が出た。ちなみに、このときの田中康郎裁判長は、今は札幌高裁にいるらしい。二つの再鑑定の結果が犯人と菅家さんの型が異なることを暴いただけではなく、なんと、科警研による犯人のDNA鑑定さえ間違っていたことを明らかにしてしまったらしい。

昨年10/16に足利事件でDNA再鑑定が行われるという報道があった12日後に、飯塚事件の久間さんの死刑が執行された。おそらく報道を知っていた久間さんは、弁護士に再鑑定をうったえることもできないまま、死刑執行されてしまった。アメリカでは、死刑執行の直前まで弁護を受けられるそうだ。佐藤さんは、この死刑執行を殺人だと厳しい口調で叫んでいた。

科警研、検察、裁判所は、早期に再審を開始して無罪判決を行い、当時のDNA鑑定の問題を闇に葬り去ろうとしているそうだ。現在の足利事件は、開かれたパンドラの箱を再び閉じようとしている者との戦いなのだそうだ。

講演会の残り時間に、佐藤さんに続いて、菅家さんが演台に立った。刑事たちによる強制的な「任意」同行についての話が痛々しかった。初めから犯人と決めつけて自白させることが目的だった。取り調べもやはりひどかった。だから、菅家さんは取り調べの完全な可視化をうったえていた。

講演会の最後にあった、佐藤さんから学生へのメッセージは、弁護士だけではダメだから、立派な検察官や裁判官になれというものだった。菅家さんからは逆に、足利事件の1審の弁護士のようになるなというものだった。

裁判員制度が始まった時期に、足利事件について知ることは大事だと思う。殺人の共犯になるかもしれない。裁判員にも真実を見る力を求められているのは間違いない。

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