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しっこひとり

アメリカ旅行の記録もインディアナ編が一段落付いたので、映画の日の話題で小休止。といっても、アメリカから帰って来たばかりだけに、余計に他人事とは思えなかったし、何より、医療問題を通じて民主主義の本質をのぞくことができたので、思いもかけない収穫だった。

今月の映画の日、9/1は土曜日のせいもあってか、シアターキノは人で溢れていた。「しっこひとり」っと受付で白衣のコスプレをしている店員に頼んで整理券を受け取った。なんだか、健康診断で尿検査に着た気分だ。「シッコ」じゃ「しっこ」と読むしかない。「SiCKO」だったら、少しはマシかもしれないが。

上映開始の30分前に着たけれど、受け取った整理券の番号は46番。この日の2回目の上映とはいえ、大盛況なのは間違いない。ロビーの壁に貼ってあるシッコの解説を読みながら待っている間にも、次から次へと客の足が途絶えない。いつの間にかロビーがたくさんの人で息苦しくなって来た頃、整理券の番号に合わせて待っている場所を分ける指示を店員が出した。50番以降は廊下に出ることになった。この時点で配られている整理券は80番を超えている。

ようやく入場が開始されると、幸い見やすい真ん中の席に座れた。もちろん空席はなく、通路にパイプ椅子の補助席まで設けられた。あまりに人が多いためか、エアコンが付いているのに肌寒く感じなかった。それでも、油断してこの間のように風邪は引きたくないので、シャツを腹にかけてシートにもたれた。

マイケル・ムーアのジョークは確かに面白く、札幌に住んでいるらしい外国人客はバカ受けしていた。映画が後半になると、彼らの陽気な雰囲気に釣られてか、札幌人も声を出して笑っていた。とても笑えないような内容から笑いを引き出すマイケル・ムーアの才能に脱帽だ。けれども、コメントにもあったように、今度のシッコは、これまで以上に涙を誘うものだった。

そして、この映画で、ジョークや他の何よりも心に残るものは、民主主義の考え方だった。確か、イギリスの元国会議員の発言だったと思う。ちゃんと考えてみれば、まともに民主主義が機能していれば、医療制度が劣悪になるはずがない。自分の健康を損ない死に至らしめるような制度を支持する人間はいるはずない。民主主義の国で有権者一人一人がその権利を行使するなら、必ずまともな医療制度になるだろう。現実が、特に、アメリカでそうでないのはなぜか。彼の口から語られる。

もう一つ、衝撃を受けたのは、日本の医療制度は少しも優れてはいないということだった。映画で紹介されるカナダ、イギリス、フランスのどの国と比較しても、日本の制度は患者により大きな負担を強いる。もちろん、キューバと比較してもそうだ。まさに井の中の蛙。これが日本の現実で、実質、アメリカの占領統治の延長線上に過ぎないことを実感する。そして、親米売国政権と外資、保険業界その他によって、日本の医療制度はさらにアメリカに近づき、劣悪なものにされようとしている。

Do something! マイケル・ムーアのメッセージだ。まずは、友だちにこの映画を薦めよう。

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コメント

日本の医療は大変優れています。

http://www.tokyo.med.or.jp/tomin/medsystem/01.html

しかも租税負担率は米国並み。http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/021.htm

あなたの言うとおり、患者窓口負担を減らしたければ消費税は20数パーセントは間違いないでしょうね。それを受け入れて良いというのであれば、OKでしょう。

映画には描かれていない点に注意しましょう。

投稿: ciao | 2007年9月 2日 (日) 22時12分

>ciaoさん
コメントありがとうございます。

おっしゃるように
日本の医療水準はかなり高いんじゃないかと思います。
映画を見終わってから
日本は寿命が一番長かったことを思い出しました。
実際、2000年のWHOの統計では
健康達成度の総合評価は1位のようですね。
確かに医療は優れているのだと思いました。

では、なぜ日本の医療が優れているのでしょうか。
単純に金の観点からアメリカと比較して考えると
日本の医療保険では
大きな患者窓口負担に相応のサービスが
受けられるからだと思いました。
なぜなら、日本ではアメリカのように
保険会社が保険料をネコババできないはずだからです。

一方、窓口負担ゼロにもかかわらず
米国に比べて評価が高いフランス、カナダ、英国は
財務省の統計によると
確かに租税負担率が日本よりも
10%程度高いようですね。
それに応じる形で
社会支出の対国内総生産比も
高くなっているのだと考えたとします。
http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/kyuhuhi-h16/5/No5.html
それならば
ciaoさんがおっしゃるように
単純に日本も消費税を上げればいいという話に
なるかもしれません。
けれども
日本の消費税は一律ですが
先ほどの国々では食料品などの税率はゼロ
あるいは、低く抑えられています。
つまり、贅沢品に課税されるのが
消費税だといえます。
このことも合わせて考えれば
ちょっと大雑把ではありますが
これらの国々では富裕層は別としても
結果的に日本より個人負担が小さいと考えても
おかしくはないでしょう。
映画でも語られていたように
豊かな者が貧しい者を助けるというのが
当たり前の価値観になっているのだと思います。

もちろん、映画に映し出された国民の姿がすべてだとは思いません。
もっと貧しい人たちがいるはずだと
疑いながら映画を見ていたのは事実です。
また、OECDの評価の仕方も
批判的に見なければいけないでしょう。
数値だけで評価するのは非常に危険です。
医療における豊かさを
この評価だけに委ねるべきではないでしょう。
ですが、これまでのことから少なくとも分かることは
フランスなどのような税制を見習うことによって
日本の高い医療水準を維持したまま
患者の窓口負担を減らし
よりよい医療を実現することができるのではないか
ということです。

OECDの評価で1位であることに
あぐらをかいているべきではありません。
しかも、この統計は
小泉内閣が成立する前のものです。
「医療制度改革」で大きくなる個人負担を見れば
現状維持さえ危ういことは言うまでもありません。

投稿: H本 | 2007年9月 3日 (月) 00時41分

初めまして☆わたしも映画みました。あれが日本の未来ですよ。みんな民営化でどうなるかわかってないです。いよいよ郵政民営化がはじまります。郵政民営化はアメリカが日本の国の資産を奪う為の要求で売国です。げんにニュージーランド、フランスなど世界各地で失敗して国営に戻り、英のブレア首相は世界で日本だけが逆行してると指摘。サービスはよくなるどころがどんどん値上がり。郵貯破綻です。森田実「アメリカに使い捨てられる日本」等多くの本でマスコミの書けない年次改革要望書について書かれています。安倍さんも小泉さんも東京都知事の石原さんも市場原理主義の政策ではなから弱者や地方きりすて、都市や富裕層だけが儲かるシステムです。最近言われるワーキングプアや地域格差はそういう考えによる規制緩和や民間にたくす政策が原因。これから格差はどんどんひろがり、1割の金持ちと9割の貧乏で、たくさんの人が働いても働いても報われない日が来ようとしています。政治や経済に興味がないためにマスコミに操られ、全く気づいてない日本国民が多すぎます。「国富消尽」「民営化で誰が特をするか」「官僚とメディア」経済やメディア操作やグローバル化やアメリカの現状などの本を読んでみて下さい。失礼しました☆

投稿: 愛 | 2007年9月 3日 (月) 22時32分

>愛さん
書き込みありがとうございます。

できれば
具体的な書籍名も紹介してくださるとうれしかったです。

郵政民営化も含めて
国民のセーフィティネットを民営化するなんて
とんでもありません。
少なくとも
一般の国民に利益はありません。
愛さんがおっしゃるように
まさに地方と弱者の切り捨てに他なりませんね。

以前、テッサ・モーリス・スズキさんが来札して講演した際
豪州における刑務所の民営化について
話していました。
その後、日本でも民営刑務所ができてしまいました。
民営化というのは
市場原理を導入するということですが
いったい刑務所にどのような市場原理が成り立つのでしょう。

民営化する場合はいつも
「市場原理で経営の効率化」といいますが
結局は人件費の抑制とサービスの低下による
コスト削減が狙いですね。
サービスの質が下がるような場合は
競争入札もすべきでないでしょう。
民営化以外の方法で
サービスの質を維持したままで
コスト削減を目指さなければ
国益(国民の利益)につながらないと思います。

日本の郵政もさっさと国営に戻しましょう。
日本人もフランス人のように立ち上がるためには
いったいどうすればいいか
真剣に考えなければいけない時だと思います。

投稿: H本 | 2007年9月 4日 (火) 01時13分

ご丁寧な返信投稿ありがとうございます。

問題が複雑になるのは、医療提供体制と、医療保険財政の2つについて考えなければならず、医療保険財政が逼迫すれば、医療提供体制にしわ寄せが来て、それが現在の医療従事者の低給与、モチベーション低下、医師不足、看護師不足などに現われているんですよね。

周産期医療の「たらいまわし」というマスコミが表現すること自体、この2点の問題があるということを分かっていないといわざるを得ません。

また、窓口負担は3割の人は、3割ですが、現実的には高額療養費制度などもあり、国民が窓口で支払っているのは15%程度です。高額療養費は一定額以上は払わなくても良いという大変優れた制度ですが、民間保険会社のビジネスには良くないため、彼らはその制度告知しません。厚生労働省から民間保険会社に、国民の不安をあおるとして指導が入ったほどです。

いずれにしても国民がこのように議論を始めたこと自体は歓迎すべきことかもしれませんね。最終的にはおっしゃるとおり数値の問題ではなく、価値判断の問題だと思います。どういった社会のあり方を望むのか。それは最終的には、国民が選挙で民意として示すしかないのだと思います。

投稿: ciao | 2007年9月 4日 (火) 01時14分

「社会支出の対国内総生産比」についての補足ですが
日本の医療費が低いことについての見方は二つあると思います。

一つは、上に書いたように
医療費をもっと上げ
患者窓口負担を小さくすることによって
医療の向上を目指すべきだという考え方。

二つ目は
優れた医療をこれほど低い医療費で実現している
すばらしい国だと考える見方です。

WHOの評価を鵜呑みにすれば
後者の見方も成り立つでしょう。
けれども、この場合でも
優れた医療を実現しているのが
医療従事者の過重労働のおかげだということを
忘れてはいけないでしょう。
医療従事者に劣悪な労働環境を強いる医療制度が
優れているとは到底考えられません。
ですから
現状維持という選択肢はどこにもないことが分かります。


投稿: H本 | 2007年9月 4日 (火) 01時24分

>ciaoさん
さらに書き込んでくださりありがとうございます。

自分のタイミングが悪くて書き込みに気づかず
次のコメントを書いてしまいましたので
改めて書きます。

ciaoさんのおっしゃることが
よく理解できました。
医療提供体制にしわ寄せがいかないように
医療保険財政を立て直さなければいけないのだと思いました。
そのために単純に消費税率を上げるとすると
医療を受ける人たちが
その所得に関わらず
医療提供者を経済的に支援するという
良く言えば助け合いですが
逆立ちした状況になります。
負担が大きくなれば
受けられる医療の質は下がるわけですから
やはり財源は自己負担ではなく
他のところに求めるしかないのだと思います。

現状のように医療提供体制に問題があるなら
WHOの日本に対する評価は不十分だと思います。
イギリスでも日本と同様の問題があることも
耳にしました。
順位を決めることに意味はありませんが
評価するなら医療提供体制も
検討の材料にすべきだと思いました。
こういった統計の数字は一人歩きしやすいので
改めて注意しなければいけないと思いました。
今後さらに
国民の間で冷静に議論が行われることに期待します。

投稿: H本 | 2007年9月 4日 (火) 02時02分

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