雪崩事故防止研究会主催の講演会「雪崩から身を守るために〜積丹岳スノーモービル雪崩事故の検証〜」に参加した。
講演開始30分前に会場に着いたときには、まだ30、40人ほどしか来ていなかった。ところが、10分前あたりからどんどん増えて、結構広い会場なのに講演が始まる頃にはほぼ満員で、立ち見が出るほどの盛況だった。これもバックカントリーブームのためだろうか、それとも先日の上ホロにおける雪崩事故の影響だろうか。そのおかげで、参加すると言っていたS木くんを探し出すことも出来なかったけれど。
今回の講演会で一番興味があったのが、最初の阿部幹雄さんの「雪崩発生と救助捜索活動」で、先シーズンの積丹岳の雪崩事故の詳細について知りたかった。ただ、積丹岳に登ったことがないので、今ひとつイメージが薄くなってしまった。
事故に遭ったパーティーは全道から集まったスノーモービラー、スノーボーダー、カメラマンの総勢22名という。雪崩事故の起きた当日、3/18(日)の天候は、事故現場付近の視界が15-20 mしかないとても悪い状況で、普通だったら帰るほどだったらしい。実際、同じ日にニトヌプリを登っていても、かなり風が強かった。にもかかわらず帰らなかったのは、「せっかく集まったのだから」という気持ちが働いたかららしい。
そんな悪天候の中、午前中は斜面の真ん中より下の方でヒルクライムというモービラーの遊びを何度やっても雪崩は起きなかったらしい。午後になって天気がさらに悪くなって小屋へ帰ろうとなったものの、新雪が積もって降りて来た斜面を稜線まで登ることが出来なかった。そこで、雪崩事故が起こることになった斜面へ戻り、そこを登ろうとした。ボーダーとカメラマンの5人は徒歩で登り、技術の高いモービラー1人がピリカ台の方まで斜めにトラバースして登って行き、ついに稜線に到達した。そのモービラーが引き返して斜面をまっすぐ下り降りているときに、モービラーの上から雪崩が生じたそうだ。
モービラーは全速力で走って逃げることが出来たが、下で待機していた他のモービラーたちは雪崩に巻き込まれてしまった。モービラーが持つプラスチックのシャベル以外、ビーコンもゾンデもなし。巻き込まれなかったメンバーは木の枝をゾンデ代わりに使い、デブリを手で掘り返したそうだ。事故発生から1時間ほど探した後、稜線まで出て携帯電話で警察に通報。最終的に捜索の本部が設置されたのが、それからさらに2時間ほど経ってから。設置は比較的早く、夜間も捜索が行われたことは異例だそうだ。
で、雪崩の大きさは幅が~200 m、長さ~700 m。斜面の平均斜度は32°。稜線には大きな雪庇、直下には吹きだまり。斜面のどこでも、手首で切れるあられの弱層が発達していた。これらの特徴については、他の演者からも同じような指摘があった。
弱層については、最後の「気象データからの推察」で秋田谷英次さんは、前日3/17の放射冷却による霜の可能性も指摘した。
「雪崩の調査と分析」を講演した尾関俊浩さんが、事故現場まで調査に行くのにスキーなら1日行程だが、スノーモービルなら30分で現場まで到着できるという話に触れていた。
講演を聴いてはっきりすることは、被害者の雪崩に対する知識不足だと思う。まず、装備の点では、シャベルを持っていないので、弱層テストは頭にないだろう。ビーコンとゾンデも持っていないので、雪崩が起きるとは考えていないはず。次に、ルート・ファインディングについてみると、アバランチ・パス内で待機すべきじゃない。根本的に、かなりの悪天候で行動していることを踏まえて、メンバーの安全確保をすべきだろう。事故なんて防ごうと思っていても起こるから事故。防ぐ努力を怠るのは過失だろう。
最後に阿部幹雄さんは、被害者たちが「自然への畏れ」を持っていないことの問題点を指摘した。装備の向上で、これまでより簡単に雪山を楽しめるようになったことが、「自然への畏れ」を失わせる原因の一つではないかと話していた。
これは、人間にはどこまで行っても着いて回る話だ。科学万能という妄想のしっぺ返しを何度受けても、人間の傲慢さは変わらない。一方で、スピリチュアルだのというものの人気が出たり。人類は滅ぶべくして滅ぶのか、今頃になってようやく温暖化対策が叫ばれるようになったかと思えば、それを利用する原子力産業や石油、穀物メジャー。
そんな温暖化に関して、ちょうど最後の秋田谷英次さんへの質問があった。その質問への答えは、北海道の雪への温暖化の影響はよく分からないが、可能性としては北陸のような雪になって、スラッシュ雪崩が発生するようになるかもしれないという報告があるらしいというものだった。これ以上厄介になるのはご免だ。
最後に、今回の講演会への参加して、自分の雪崩事故防止への対策を考えてみる。知識についてはまだまだうろ覚え程度なので、本を何度も読み返して定着をはかる。実践が何よりも大事なので、弱層テストを頻繁に行って知識と合わせてものにする。それらを踏まえた適切なルート・ファインディングを心がける。ちなみに、滑って転ぶのは論外だけれど、先シーズンはそれまでと装備も換えたせいか、一度も転ばずに済んだ。今後も滑走技術の向上は必要だ。雪崩救助の勉強と訓練も追々やろう。S木くんもビーコン買ったらしいから、2人同時に埋まった場合の練習もできる。基本的な方針として、雪崩が起きる可能性が小さい範囲で滑りを楽しむ。これまでも本当に危ないと思った時は、やっぱり雪崩が起こっている。秋田谷英次さんが動物の勘のようなものについて話していたが、安全はともかく危険を察知する自分の勘は信じよう。多重防護の発想で。
雪崩事故防止研究会の「最新雪崩学入門」も含めてOから冬山に関する本をずいぶん寄贈してもらったけれど、まずは自分の教科書になっている「雪崩リスクマネジメント」を読み込むことにする。
「最新雪崩学入門」の改訂版?で雪崩事故防止研究会の教科書。
自分の教科書。
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