Studies of an Avalanche on Mt. Youtei, 1970
秋田谷先生の講義を聴いて、1970年に羊蹄山で発生した雪崩のことを初めて知った。これまで羊蹄山ではまず雪崩は起きないだろうと思っていたし、4日前に滑って来たばかりなのでドキッとした。幸い、雪崩の調査についてHUSCAPで文献が公開されている。
1970年の雪崩は、人間が誘発したのでも犠牲者が出たわけでもなく、春になって雪崩による森林被害が見つかったというものだった。詳細は不明だが、発生地点は二カ所で、羊蹄山東斜面の京極滝ノ沢と、なんと南斜面の真狩墓地ノ沢だった。講義では滝ノ沢の雪崩にしか注意していなかったけれど、実は、先日滑り降りた尾根のすぐ横の沢で雪崩が起きていたと知って驚いた。危うくその沢に入るところだったとは……。
二つの雪崩はほぼ同じ規模らしく、文献では滝ノ沢の雪崩調査の結果が報告されている。「発生地点の標高は、デブリの中にハイマツの枝が見出されたことから、少なくともハイマツ帯の下限の標高1,500-1,600 m以上で発生したものと推定されたのもである。デブリ末端の標高が485 mであるから標高差は1,000 mをこえ」た。「標高600-680 mのガリーの斜面上部(渓床より20 m以上高い)に、雪崩風によると思われる樹木の折傷地帯があ」り、「雪崩風をともなう雪崩の運動形態はけむり型に該当する」。一方、「デブリの中には自然積雪のかなり硬いブロックが見られたこと、多量の土砂や堰が含まれていることから、旧雪全層雪崩で、ながれ型と考えられる。すなわち、けむり型とながれ型の2つの型の雪崩が起こったと考えられる」。
1970年の冬、北海道は3回の異常気象に見舞われていて、1/31-2/2にかけては960 mbと台風なみに低気圧が発達したそうだ。1/31午前9時に真狩では平均気温-1.8℃、新積雪深24 cmで、この冬の最大降水量88 mmを観測している。また、中山峠でも吹雪の1/31午前8時半から24時間の新積雪深はこの冬最大の50 cmで、最高、最低気温は-1℃と-4℃。さらに、「この年の倶知安、真狩の年再深積雪はそれぞれ312、296 cmで過去35年間の最高を示している。まれにみる大雪のため、このような大規模な雪崩が発生したのであろう」と結論づけていた。
新雪がある時に、大きな沢へ入ることはないけれど、樹林限界を超えた辺りで浅くなった沢を越えることがないわけではない。大雪の年には雪崩が起こりやすいということを考えると、新雪に浮かれずに降雪から慎重にルートを判断しなければいけないことが分かる。
ちなみに、羊蹄山にスキー場を作る計画があったらしいが、この報告で中止になったそうだ。雪崩のおかげで羊蹄山が手つかずのまま残されているというのは皮肉なものだ。堕落した人類には自然の厳しさが必要ということだろうか。
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コメント
HUSCAPの報告書読んだよ。改めて日本最大級の雪崩(2000年の上宝村を除く)の凄まじさがわかった。講座では、京極滝の沢の雪崩の話と真狩村がスキー場を計画していて中止になった話の二つが結びつかず、おかしいな…と思って聴いていたけど、雪崩はなんと真狩墓地の沢でも発生していたんだね。
滝の沢の雪崩の発生場所は、デブリに含まれていたハイマツの枝の存在から、標高1500-1600m以上と推定されているけど、墓地の沢の場合はどうだったのだろう?
地形図で見ると、東斜面では深い沢が標高の高いところ(1500-1600m以上)まで伸びているが、南斜面の真狩墓地の沢は上部はそんなに深い沢は発達していないように見える。
墓地の沢の全層雪崩は、もう少し標高の低い険しい沢型で発生したと信じたいけど、さほど険しくない上部の小さなガリーでもあの規模のが起こるのだとしたら、かなり危険かも。少なくとも春先、ここの上部斜面で小さなガリーを越えて尾根から尾根へトラバースなんてことは怖くてできなくなりそうだ。
投稿: O | 2008年1月 9日 (水) 17時41分
ホント報告読んで驚いた。
確かに、南斜面ではハイマツ帯までは深い沢は続いていないね。たまたまデブリの規模が同じだということなんだろうか。
結論で触れているように、例年にない大雪の年だったということが大きいんだと思う。積雪が増すほど危険も増すということを意識すべきなんだろうね。
さらに驚いたことに、滝ノ沢を厳冬期に滑っている人たちがいるようだ。
http://www.diana.dti.ne.jp/~tyoshi/record/ski/20050109mt_youtei.htm
しかも、同じ人が北斜面で雪崩事故起こしてるし。
http://snowforest.blog23.fc2.com/blog-entry-182.html
投稿: H本 | 2008年1月 9日 (水) 19時56分
積雪量の増える2月中~3月に比べて、雪不足の時期は雪崩のリスクは大局的に少ないんだろうね。もちろん条件によって樹林帯でも流れることはあるけれど、樹林やブッシュによる抵抗が全くない斜面とでは、雪崩の発生と規模に関するリスクは比較にならない気がする。
この雪崩報告は教訓になるね。当事者のレポートは臨場感が伝わってきた。ニトで目の前に走ったクラックを思い出す。
投稿: O | 2008年1月10日 (木) 16時01分
この間話したけど、10人を越えるパーティーでは滑りに行きたくないよね。沢の中だと安全を確保するのが難しいから、万一の場合は全員埋没の可能性もあるし。それに、ボーダーと行動するのも大変そう。三段山クラブみたいに、パーティーで装備をそろえるというのも、今なら妥当な気がする。ちなみに、滝ノ沢滑ってるのって、オレたちが墓地ノ沢コースに行った翌日だよね。
https://freeride.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/0518__5f4d.html
レポートはありがたいね。ニトでは音こそしなかったものの、クラックはきれいに入った。ちゃんと確認はしなかったけど、深さはどれくらいだったんだろう?ホントの表層だけだったんだろうか?安全を確保して調べればよかった。とりあえず、先シーズンの旭岳の報告は近いうちに公開しようかな。すでに旦那さんが事例として使って、知っている人もいるだろうから。
投稿: H本 | 2008年1月10日 (木) 17時00分