08/3/30 前十勝岳
※十勝岳避難小屋上部の前十勝岳付近は立ち入り禁止区域です。(三段山クラブのカミフルールより)
数日前から週末に狙いを定め、天気予報を見て最終的に日曜日に行くことに決定。前十勝岳は、去年、三段山に行ったときから気になっていた。三段山クラブや他のパーディーが今月既に入っている報告があったので、初めて行ってみることにした。メンバーはS木くんと二人だけ。
前日、雪山ガイドでコースをチェック。万一のホワイトアウトを考えて、カワバラ尾根コースに決めた。念のため、ボウル斜面コースのウェイポイントもGPSに登録しておいた。
北海道雪山ガイド―北海道スノーハイキング姉妹編
著者:北海道の山メーリングリスト |
できるだけ行動時間に余裕を取りたかったので、無理しない程度に早起きして5時に札幌を出発。富良野までは路面も乾いていて、吹き上げ温泉には7:30ころ到着。雲ひとつない青空に、噴煙を上げる十勝岳が出迎えてくれた。久しぶりの山で、ゆっくり忘れ物が無いように準備して、入山届けを書いて8:20に登山口を出発した。2パーティーが十勝岳へ先行していた。
針葉樹の林の中をトレースをたどってしばらく進むと、視界が開けて、一度木の陰に隠れていた山々が再び姿を現した。観測小屋がある。暑いので一枚脱いだ。ここから一旦下って尾根を登り、その向こうの富良野側のスノーブリッジを渡った。心配していた割に、スノーブリッジは全然問題なかった。ここから前富良野岳の斜面が確認できる。登る予定のカワバラ尾根の方に目をやると、2人が登っているのが見えた。その2人のトレースをたどって登って行く。
尾根を登っている時、先行の一人がずいぶん立ち止まっていた。その辺りを通り過ぎたときにゲロ発見。危うくストックを汚染させるところだった。もらいゲロを堪えてカワバラ尾根を登って行くと、次第に富良野岳が頭をのぞかせて来た。富良野岳の反対側、遥か向こうには、白い大雪山系が見える。
沢筋には薄らと新雪が積もっていて登りやすいので、ジグを切りながら1,500 mくらいまで登る。せっかくの快晴なので、休憩は景色のいいところと思って、少しルートから右に逸れたハイマツ帯の側まで行って休むことにした。ここまでで大体2時間くらい。
「あんな岩ゴロゴロしていて滑れるの?」っとピークを見上げるS木くん。
三段山の方を眺めると、アリの様に何人もピークに向けて登っているのが見えた。去年の12月もそうだったけど、スキー場と化しているな。
休憩をとっている内に、一旦追い越した2人がハイマツの向こう側を登って行った。追い越すときに話したけれど、ゲロってたおじさんの方は、思った通り飲み過ぎたらしかった。常に相方のおばさんが先に登っていた。千春沢は新雪が少し積もって上まで続いているので、そのまま沢筋を行けるところまで行ってみることにした。天気は相変わらず快晴無風。見上げると青空に噴煙が伸びている。問題なさそうだった。
ハイマツ帯をそのまま登ると、上の方は岩がゴロゴロしているので、沢の方に少しまいて登る。
カワバラ尾根を登っているときから、下の方で犬の鳴き声が聞こえていた。千春沢の向こうの尾根を登っている2人のパーティーが連れているようだった。違う犬だろうけれど、登っていると自分の足下に犬っぽい足跡を見つけた。
新雪の下はクラストした斜面なので、段々登りづらくなって来た。1,700mくらいまで行くとシールで登るのをあきらめた。とりあえず、S木くんが登って来るのを待つ。少し経って近くまで登って来たS木くんと話して、スキーを担いでツボ足で登ることに決めた。アイゼンを持ってないので、ダメそうだったら直ぐにあきらめ、スキーで降りられそうな場所を確認しながら登ることになった。
雪は硬くて、ステップをきってもつま先が少し引っかかるくらいだった。岩がゴロゴロしているので、転んでも痛いだけで、岩に引っかかって滑落はしないだろうと思ってひたすら登った。しばらくして火山観測の機械らしきものが見えて来た。変な振動を与えるんだろうと思いつつ進む。岩がなくなって歩きやすくなったところがピークだった。十勝連峰の景色がすばらしい。
景色はいいけれど、噴煙の上がる62-II火口からの「ゴー」という音が怖い。とりあえず、ほぼ無風で弱い風がピークの反対側へ吹いているし、相変わらず快晴なので、S木くんが登って来るまでビクビクしながら展望を楽しむ。
しばらくしてS木くんも登って来た。二人とも登頂したので、心細くなくなった。
火口も確認。火山を見ると地球は生きているという実感が湧く。
ちょっとして、抜きつ抜かれつしていた2人がスキーをデポしてツボで登って来た。せっかくなので記念写真を撮ってもらった。二人は夫婦で還暦のお祝いに十数年ぶりだか数十年ぶりに前十勝岳に登ったらしい。還暦とは思えないほど元気で素敵な二人だった。
その二人が下山して行くと、入れ替わるように新たな中年夫婦がスキーを担いで登って来た。最近の若者よりみんなずっと元気なんじゃないか?おじさんの話では、三段山クラブは三段山に行ったという話だった。それと、やっぱり前十勝岳のピークは立ち入り禁止ということだった。
自分たちはピークで飯を食うほど気持ちに余裕がないので、とりあえず、滑って降りて、適当なところで改めて休憩をとることにした。ボウル斜面側が岩がなくてそのまま下れそうなので、そっちを滑り降りる。
滑降写真を撮ろうと思ってツボ足で少し下ったときに、際どく滑った。なまら焦った。かなり死を意識したけれど、ギリギリ滑落せずに踏みとどまった。ドキドキしながらも撮影。
尾根側は風で雪が飛んでいてガリガリで滑れたものじゃなかったけれど、少し下ると沢に向かって雪が付いていたので、気持ちよく滑れた。先に降りた二人のトレースが、大正火口のあたりから沢をずっと続いていた。
斜度が緩くなった辺り、1,600m辺りで一旦止まる。ここから雪はもう腐っていた。まだ12時半くらいだったので、休憩をとってから今の斜面を登り返すことにした。休んでいると下の方から硫黄の匂いがして来た。おそらく、風向きから大正火口からの匂いじゃないだろう。有毒ガスの話を聞いているので、油断できない。
13時に登り返す。
滑った斜面を登り返す。登っているときに、火口の方で落石のガラガラという音が聞こえた。
朝から何度か飛行機が飛ぶ音が聞こえていたけれど、今度は見上げると飛行機雲が伸びていた。
14時に再び滑り降りる。S木くんが「先に一気に滑っていい」と言うので、遠慮せずに一気に滑り降りた。途中、スピードにビビって後傾になったけど、緩斜面に移ってからは岩の間を気持ちよく滑った。岩が隠れていないか心配だったけれど、気持ち後傾で軽い踏み込みを意識して標高差300 mを一気に滑り降りた。
息切れしながらカメラを構えると、液晶に写るS木くんは点。一気に滑りすぎた。S木くんは手前に滑ったので、ガリガリの斜面に苦戦していた。後から聞いた話では、カメラに写るように気を遣ってくれたらしい。悪いことをした。
ビデオはS木くんがカメラのフォーカスをマニュアルにした影響で、幸か不幸かピンぼけで望遠側はよく分からない。ビデオ (23937.3K)
S木くんと合流すると、目の前を上からテレマーカーとボーダーたちが滑り降りて行った。ボーダーが沢をハーフパイプのように滑って行く。せっかくなので、みんな滑り降りてから飛べそうなポイントを探して飛んでみた。S木くんがカメラを構えていないので、ただ落ちただけだったけれど、これがヤバかった。着地でカメラが膝にもろにぶつかった。痛い。
さっきのテレマーカーがガイドらしく、下山ルートを案内して岩への注意を促したりしていた。この際、ちゃっかり後ろを付いて行く。示してくれたルートでスノーブリッジを渡り、お帰りコースを滑って白銀荘まで帰った。
白銀荘には15時前に到着。今回は二人だけなので、修行モードにならずに早く終わったけど、久しぶりの山で疲れた。白銀荘の駐車場は車で溢れていた。すごい。下山写真と駐車場の写真を撮ろうとカメラを取り出したら、なんとレンズが割れている!っと思って焦ったら、割れてるのはKenkoのプロテクターだった。レンズは無事。プロテクターも安かないけど、レンズとは桁違いなので命拾い。カメラをぶら下げて飛ぶもんじゃないな。
露天風呂からは青空にそびえる前十勝岳と、そこから立ち上る噴煙が見える。一日中快晴無風だった。絶好のコンディションだった。
夕陽に染まる十勝連峰が撮れるかもしれないと思って三脚とかを持って来たけど、16時じゃまだまだ明るい。腹も減るのであきらめて富良野に戻ることにした。途中、美術館のそばで写真を撮っている人がいたので、自分もつられて車を止めて写真を撮った。もう農作業を始める季節なのか……。畑ではトンビか何かとカラスが喧嘩してた。
富良野では久しぶりに唯我独尊でカレーにした。ただ、今回は時間に余裕があるので、カレードリアを頼んだ。カレーが少なくてカレーっぽくないけど、チーズが美味しい。
富良野からは走りも順調で、めでたく20時前に家に着くことが出来た。やっぱり早く帰れるのはいい。
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さて、今回、無事下山することができたけれど、問題点は多かった。まず、立ち入り禁止区域をちゃんと確認しなかったことが問題だ。カミフルールでも確認を促している。立ち入り禁止の意味を軽視して、好天を理由に安易に立ち入るべきではなかった。風の向きが変わり強くなったことを考えると恐ろしい。
先行者がいたことによる気のゆるみもあった。「他に登っている人もいるなら」という気持ちが、立ち入り禁止区域であることを忘れさせることにもなった。結果として、自分たちが登ったことで、他のパーティーも付いて来た形になってしまった。最悪の場合、全員が被害に遭っていたかもしれないので、せめて、登る途中でお互いの計画を話しておけばよかった。ピークまで行く前に立ち入り禁止のことを聞いていれば、危険を冒してまで登らなかったかもしれない。
ツボ足でスキーを担いで登ったのも、場合によっては危なかった。滑落は可能性が低そうだったけれど、転んで怪我をすることは十分考えられる。それなのに、進むルートと下山ルートを確認することに気を取られて、メンバーの安全を確認せずに登ってしまった。
下山ルートももろに泥流、岩屑なだれの走路になっている。面倒くさがって、休憩までとってしまった。天気がいいからと油断しまくりで、やっぱりちゃんと安全を確保すべきだったと後悔する。
ただ、結局のところ前十勝岳のどこが立ち入り禁止区域なのかよく分からない。夏道は、昔あったという前十勝岳経由の十勝岳へ向かうルートは通れないようにロープが張っているそうだ。ガイドが滑っていたルートもあるし、犬も登っていたルートもあった。どこでも登れそうだしどこでも滑れそう。強いてあげれば、カワバラ尾根から千春沢を挟んで反対の尾根までは、火山のハザードマップの危険域からは外れているから、現状ではこの区域が比較的安全ということかもしれない。けれど、火口はどこに開くか分からないので、安全の保障なんて実質はないだろう。やっぱり前十勝岳は登らない方がいいのだろう。
(参考:「北海道の活火山」。表紙が十勝岳だ。)
北海道の活火山
著者:勝井 義雄,岡田 弘,中川 光弘 |
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