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ちいさな山の生命たち

佐野 高太郎の写真集「高尾山 ちいさな山の生命たち」の発売日から1年経っても、紀伊國屋書店を始め札幌の大きな書店で見つけることができなかった。いい加減あきらめて、コーチャンフォーで注文してようやく中身を見ることができた。さらにうれしいことに、しばらくしてから再び訪れると、書棚にこの写真集が並んでいた。注文してよかった。

高尾山ちいさな山の生命たちBook高尾山ちいさな山の生命たち

著者:佐野 高太郎
販売元:かもがわ出版
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表紙を飾る新緑のブナが陽射しに輝く姿が印象的だ。この「美人ブナ」はちがう季節と条件で同じアングルで撮影されており、靄の中に大きな枝葉を伸ばす様子をとらえた写真からは、1,200年以上も殺生禁断の心で崇められて来た高尾山の霊気を感じる。また、初冬になってずいぶんと葉を落とし、あらわになった白い肌の枝振りは、なるほど「美人ブナ」と人々に言わしめる優雅さをたたえている。高尾山に登って季節の移り変わりを感じることができることは、周辺に住む人たちにとってかけがえのない財産なのだろう。

この写真集には高尾山で見られる花も紹介されているが、何よりハナネコノメの美しさに目を奪われる。深紅の葯をもつこの花が薄らと雪をかぶって白く浮かび上がる様は、まるで花嫁衣装をまとった女性のように見えた。

驚いたのはシモバシラだった。「茎が枯れても土の水を吸い上げる性質を持っている」そうで、シモバシラの茎からは白い霜柱が花びらのように開いている。高尾山では冬にもこうした植物の面白さを楽しむことができるようだ。厚い雪に閉ざされる北海道とは全くちがう、植物のちいさな息づかいが伝わって来る。

シモバシラにはハッとさせられたが、ドキッとさせられる写真がある。ちいさな生き物のクローズアップ写真が並ぶページをめくっていると、唐突に「高尾山に迫る危機」という文字が目に飛び込む。圏央道の建設で高尾山にトンネルを掘る工事が進められており、水脈を傷つけて滝涸れが起こっていることを知らせるものだった。隣に目を移すと、高尾山の麓で農作業する姿が写されているが、「農薬が使われたことがない」という畑と高尾山との間を、勢いよく走り抜ける電車と、高尾山に迫るように高くそびえる高速道路のコンクリートが隔てている。高尾山で「多くの山の生命たちがいま失われようとしている」。

気持ちが沈んでしまったところで、もう一ページめくると、少し明るさが戻る。そこにはツリーダム(Treedom)について紹介されていた。著名人の参加などもあって、少しずつ高尾山の問題が知られるようになって来ているそうだ。暗闇にキャンドルライトでぼんやりと浮かんでいるツリーハウスは幻想的だ。

この写真集には、高尾山の冊子がはさまっていた。散歩の見所が紹介された地図に、代表的な生き物の写真。トンネル工事が高尾山の自然に与える被害についても紹介されている。さらに、振り込み用紙も用意されているので、「高尾山の自然をまもる市民の会」に入会してすぐに一歩を踏み出せるようになっている。小さい冊子なので、散歩のときには折り曲げてポケットにも入る大きさながら、よくできたものだと思った。

高尾山で行われている圏央道の工事差し止めを求めた裁判、高尾山天狗裁判は、国の主張を鵜呑みにした「不当判決」が出たため、東京高裁へ控訴している。トラスト地も一方的に収用されてしまった。期待された八王子市長選挙も、恐ろしく低い投票率で、政治、特に地方政治への無関心が際立った思いがした。その一方、道路特定財源にまつわる国土交通省の不祥事が次から次と噴出して、今度こそ「聖域」にメスが入るかどうかというところ。けれども、ちょっと前には都議会では慎銀行東京に400億円の税金を捨てる決議があったばかりだ。東京都民もここらで「バカ」の汚名を返上するために、高尾山の霊気に触れてみるといいと思う。頭を冷やしてよく考えるのが大事だ。

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