阿部幹雄ショー
開演時間に遅れそうになってしまい慌てて家を飛び出して、大通駅からかでる2・7へダッシュ。会場のそばへ近づくにつれて、それっぽい格好の人たちが増えて来た。階段を4階まで駆け上がって大会議室へ入ると、まだまだ空いていた。先に来ているえすきくんを探して会場を見回したけれど、なかなか見つからない。あきらめて席に着こうとしていると、たまたまそばに座っていたえすきくんがこっちを見ているのに気付いた。
講演会「雪崩から身を守るために」へ参加するのは、去年に続いて2回目。今回も開演直前から会場が混み始めたけれど、主催者がプロジェクターの交換に手間取っていて、15分くらい開演が遅れた。そのおかげで、エンサヤさんはギリギリ間に合ったようだ。
まずはじめに、もうお馴染みの秋田谷先生による雪崩の基礎知識についての講演。雪崩に遭わないために危険を判断するには、知識、経験、勘。これらの他に、配布資料にはなかったけれど、スライドには運が付け加えられていた。日本人は「偶然」と考えるけれど、でなければ「神様」だと思うとか。秋田谷先生が危険の判断するための情報として強調していたのは、気象の推移だった。1週間前から調べるようにということだった。特に面白かったのは、「気象台の出す雪崩注意報なんて役に立たない」とあっさりと言っていたこと。はっきりとは覚えていないけれど、「大雪だったら表層雪崩、気温が高かったら全層雪崩の注意報がほとんど一日中出ている」そうだ。「警報はなく」て注意報なので、解除されない。結局、「気象台は雪を見ていないので」ダメらしい。
休憩時間に週刊askiさんとかっつん(本名忘れた)にあいさつすると、かっつんはもう十勝岳を滑って来たらしく、写真を見せてもらった。だんだん会場が混んで来たので、えすきくんも隣の席へ移動。ほどなく去年の上ホロの雪崩事故の検証が始まった。第一部はまず、道教大の尾関准教授。11/13の「下降ルンゼ」、11/23の「化物岩」、二つの雪崩事故の原因の弱層が、調査の結果から同じこしもざらめ雪かしもざらめ雪、いずれかの霜系の弱そうだったと考えられるそうだ。その弱層がいつ形成されたかを風速、日照、気温、降水量の気象観測データをもとに調べると、「下降ルンゼ」事故の4日前の降雪が日照とその後の冷え込みでしもざらめ化したと考えられるらしい。この弱層の上に、事故の前日吹き溜まった雪が雪崩となった可能性が高いようだ。こうして気象データを用いて、より高い精度で雪の状態を予想する科学的分析の具体的な方法を知ることができたのは大きな収穫だった。気象データからの事前の予想からは山域全体、弱層テストからは局地的な情報が分かるので、それらを比較検討する事により、斜面の危険を多角的に判断できそうだ。
続いて、三段山クラブの大西さんから、事故とその後の救出までの詳細な報告があった。まず最初に驚いたのは、大西さんのプレゼンの上手さ。スライドも凝っていて、さすがDVDを作っていただけはある、というか、本業?研究者よりも営業マンっぽい慣れたプレゼンで、画面も変化があって全く退屈しなかった。といっても、後半の「化物岩」雪崩事故の救出の様子には息をのんでしまった。3mほどの深さに埋まった被害者を掘り起こす映像が流れた。通路を挟んで向かいの人が、スクリーンに映された映像をデジカメで撮っていた。アホなにーちゃん、ねーちゃんじゃあるまいし、こんなのデジカメで撮るなよ!大西さんは一言断って、事故の総括を行うのを避けた。この後に控える生還者からの証言の前に、参加者に先入観を与えたり、証言者に圧迫感を与えないための配慮なのだろう。
そして、いよいよ阿部さんがコーディネータで、「下降ルンゼ」雪崩事故から生還した宍倉くんと、「化物岩」雪崩事故から生還した三野さんの証言の時間になった。たくさんの聴衆を前に登場した宍倉くんは、さすがに緊張しているのか、シャイな彼の口から出てくる言葉はとても小さくマイクでも聞き取るのがやっと。阿部さんの司会で用意して来た原稿を読み終えると、阿部さんがコメントを述べて再び質問する。ところが、阿部さんの質問は、なぜか宍倉くんがさっき原稿を読んで話したばかりの事を聞き返すばかり。「さっき、『真っ白で何も見えなかった』って言ったばかりじゃないか!」噛み合ないやり取りがしばらく続いた後、阿部さんが強引に「こんなに大きな雪崩に遭ったら、パニックになるものだ」というようなまとめを言って、宍倉くんの「証言」は終わった。
続いて、三野さんの証言は、宍倉くんとは対照的に流暢なものだった。雪崩に遭遇した瞬間まで対照的だったようで、とても冷静な判断で積極的に死なないための行動をとったそうだ。そのように冷静さを保てた理由が、仏教の話になり、思想の世界へ飛んで行く。こうなったら、もう「思想家」同士にしか分からない話。自分の状況を理解するために「心ですべてを受け止めて、知識で判断した」そうだ。阿部さんはこの「三野さんの言葉の意味が理解できるようになったら、少しは自然のことを理解して、事故を避ける能力を見につけることができる」というようなありがたいお言葉をくださった。
秋田谷先生や尾関さんが終了時間に間に合わせたにも関わらず、予定外の質疑応答などを入れたためか、後半が終わった時点で質疑応答終了時刻になっていた。そのため、質疑応答は省略されたけれども、なぜか阿部さんが出て来て、自分の行った南極の写真と思想のスライドがスタートした。まあ、気持ちは分からないわけではない。
この日、秋田谷先生と尾関准教授へは、短い質疑応答の時間が設けられた。秋田谷先生には、「弱層や気象などの科学的なデータを見るのは素人には大変なので、例えば、斜度が何度だと雪崩が起きるのか?」とか、尾関准教授には、「気象データを元に弱層を予想するソフトはないのか?」とかというような質問があった。どちらも最近の雪崩事故増加に納得してしまうような質問だ。面倒な判断は他人に任せて、自分はお手軽に雪崩事故を避けて滑走を楽しもうというような愚かな考えがうかがえる。こうした人たちには、阿部幹雄じゃなくても「自然に『感謝と畏敬の念』を持て!」と言いたくなる。
生と死のミニャ・コンガ
著者:阿部 幹雄 |
ところで、阿部さんの話の中でも出て来たのが気象庁だった。世界中の気象データを基にスーパーコンピューターで計算して南極の3日後までの気象予報をしてくれるそうだが、全然当たらないらしい。南極で研ぎすまされた阿部さんの五感の方が当てになるそうだ。秋田谷先生と合わせてエキスパート二人から無駄呼ばわりされる気象庁(気象台)っていったい……。
夕食を食べずに18時からずっと聴いてたのでお腹が空いた。3人で食事をして帰ろうとしていたら、途中で声をかけられた方向に目をやると悠らりさん?がいた。そこで、4人で食事することになった。店へ歩いて行く途中も食事のときも、山やスキーの話で盛り上がったのは、きっと想像がつくはず。
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