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北海道民の<働かされ方>

ケアマネージャーとの面談を済ませてから、午後に北海道科学シンポジウムの市民公開シンポジウムを聴きに行った。

自転車の鍵を忘れたので、仕方なくサドルのネジを抜いてポケットに入れ、会場の学術交流会館の中へ入った。受付で資料代を払って小講堂に入ると、開演10分前だというのにガラガラだった。チラッと会場を見回しても、自分が知っているのは演者の川村雅則北海学園大准教授と小室正範道労連事務局次?長くらいしかいなかった。心配いらないのだろうけど、もしかしたらと思ってやっぱりキャンパス内では緊張する。

14時からの市民公開シンポジウムは「北海道民の<働かされ方>」というテーマで行われた。初めの講演は川村さんによる「過労と貧困—フツーの職場のしんどい日常—」だった。講演は、川村さんのぼやきから始まった。自身がしんどいそうだ。3時まで報告書の公正を行い、8時に印刷業者へ渡したらしい。7時にはフツーに出勤して準備している業者もすごいという。そんな川村さんも、しばらく大学の向かいのユースホステルを利用して家に帰らず仕事を続けて、先日体を壊したとか。病院で診察を受けると、教員だから平日の日中に診察を受けれていいが、民間ならそうはいかないと言われたそうだ。こうした経験が「フツーの職場のしんどい日常」というテーマを生んだようだ。

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以前の講演でも聞いた介護やタクシー、トラック、あるいは、「官製ワーキングプア」の教員、郵政、自治体などの労働実態の川村さんによる調査が新聞記事で紹介された。日経連の「新時代の日本的経営」に基づいて野放図に進んだ労働市場の規制緩和で悪化した労働環境で、非正規労働者の怒りや憎しみが経営者に対してではなく、正規労働者に向かって来ているらしい。本来は職場の中で話し合われるべきことが話し合われていない状況を、地域ユニオンや個人加盟のユニオンだけでなく企業別組合も変えて行けるんじゃないかというような話しだった。川村さん自身が組合活動を行う上で、改めて労働組合論を扱うようになったきたということらしいので、これまでの実態調査に基づいた具体的な対策案に興味がわく。

続いて、川村さんの講演を受けるような形で、小室さんから「『貧困大国』日本を変える光に!—SOSネットワーク北海道、9か月の活動から—」という報告が行われた。レジュメに整理された報告があったけれど、実際に語られたのは、労働者からの相談に対応しているからこそ分かる切実な状況だった。死のうと思ったけれど死に切れずにどうしようもなくて相談に来るのだそうだ。7月9月のさっぽろ派遣村では相談員ではなかったので、自立を目指して活動している人たちの話ししか聞いていない。彼らのように立ち直ることができるように、追い詰められている人たちに「だいじょうぶだ」と声をかけられる社会にしなくてはいけないと熱く語っていた。また、具体的な対策として、これから雪が積もる札幌にシェルターを作るように札幌市に訴えているそうだ。賃金を吸い取った分の内部留保のことに小室さんは最後に触れていたけれど、企業の社会的責任を果たさせることができる労働法制を整備して行くことが、将来的にも雇用や生活の安定を保障するために不可欠なんだと思う。これまでの新自由主義的な考え方が批判されている一方で、いまだに「ビジネス」という言葉が巷に踊っていることに不安を覚えながら、講演を聞いていた。それにしても、講演の初めに目が合ったと思ったら、いきなり名前まで紹介されてしまって焦った。

3番目の講演は、働くひとびとのいのちと健康をまもる北海道センターの佐藤誠一さんから、「医師・看護師の労働実態と意識—この間のアンケート調査から」だった。医師や看護師は給与水準が高いせいか、ワーキングプアの介護労働者ほど取り上げられないので、興味をひく報告だった。医療・福祉部門の労働者数は全国、北海道ともに全就業者数の10%強。製造業部門が就業者数の第1位の全国では、医療・福祉部門は3位。一方、製造業部門に代わって建設業部門が上位3位までに入る北海道では、2位が医療・福祉部門であるらしい。そのうち、医師と看護師の数は、全国に比べて北海道は看護師の割合が高くなっているようだ。

80年代以降はじまった医療費抑制策と、1984年と1997年に行われた医学部定員削減による医師数の抑制が、医師の過労死や過労自殺を生んだそうだ。医師の過労死・過労自殺は1963年から2006年まで22件あるうち1995年以降が18件であることから、圧倒的に最近に集中していることが分かる。アンケートによる実態調査を見て驚いた。日本医労連の2006年の調査では、1ヶ月に休暇ゼロが27.0 %で、有給休暇ゼロも27.9 %。日本医師会の09年の調査では、休日が月4日以下が、勤務医46 %、20歳代が76 %。過労死認定基準の時間外労働80時間を超える医師は31.2 %という結果が、医労連が報告している。32時間(連続)勤務を月3回行っている医師が7割以上。日本外科学会の2006年の調査で衝撃的なのは、当直明けの手術への参加についての項目。「いつもある」30.8 %、「しばしばある」27.9 %、「まれにある」17.6 %で7割以上が経験しており、手術に対する影響は「ない」と答えた医師は9.4 %だけだったそうだ。手術を受ける前に当直だったかどうか尋ねた方がいいと言っていたけど、あまり笑えない。当然、こんなに働いていると健康状態がいいわけなくて、6割の医師が「慢性疲労状態」で、9割が「疲労を感じる」。8.7 %の勤務医が「うつ状態」らしい。

解決策として提示された中で、日本医師会の提起した「医師が元気に働くための7ヶ条」を読むと切ない。


  1. 睡眠時間を十分確保しましょう

  2. 週に1日は休日を取ろう

  3. 頑張りすぎないようにしよう

  4. うつは他人事ではありません

  5. 体調が悪ければためらわず受診しよう

  6. ストレスを健康的に発散しよう

  7. 自分、そして家族やパートナーを大切にしよう

医師の長時間労働などについては報道でもよくあるけれど、看護師の労働実態について聞くことはあまりない。けれども、医師と同様に「構造改革」による医療費抑制策により過重労働が強まって、去年も過労死が2人出ているそうだ。日本看護協会による去年の調査で、「交代制で勤務する23人に1人が過労死危険レベル」「未払い残業が時間外労働の4割」などの実態が分かったみたいだ。75.3 %が仕事を辞めたい意思を持っているという結果は、看護師が増えないことを反映しているように思う。

中央の官僚が道へ出向して来ることが、北海道の医療問題が改善されない根本的な理由のようだ。人口比の医師・看護師数は多いが、面積当たりでは全国最低、ベッド数当たりでも最下位クラスなどといった北海道の医療の特色を理解せずにやって来て、2、3年で帰って行くという繰り返し。ちなみに、丘珠空港の利用者には医師が多いそうだ。地域格差が大きく、札幌や旭川に集中している一方、根室・宗谷は医師が確保できなくて大変らしい。何度か聞いたことがある根室の話を思い浮かべた。

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