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三度目の「雪崩から身を守るために」

ここでも前に告知してた講演会「雪崩から身を守るために」へ行って来た。

会場の札幌市産業振興センターはイーアス札幌のすぐそばなので、今日は自転車で行ってみた。30分かからないであっさり到着。駐輪場を見つけるのに時間がかかったけど、無駄に広いからどこへ停めてもよさそうだった。

会場へ向かうときにたまたまSTVの人たちが先を歩いていた。テレビの取材が入っているようだ。資料をもらって会場へ入ると、広い会場は参加者でいっぱいだった。スクリーンが近い方がいいので前の方に座ると、すぐ近くに大西さんや秋田谷先生がいたけれど、熱光学迷彩を使っているので全然気付かれなかった。

開演前に資料にちらっと目を通して一瞬手が止まった。何だか見覚えのある写真が載っている。よく見ると、「提供:blog『ただ乗り』」と書かれている。きっとスライドではビデオが再生されるにちがいない。苦笑いしていると主催者からの挨拶で講演会が始まった。実はとっぴ~ほくやくが活動資金を提供しているらしい。雪崩と全然関係ないのに。ウインタースポーツに関わる企業が資金提供していないのがやっぱり日本らしいと思った。

阿部幹雄さんが何回聴いてもいいという秋田谷先生の雪崩についての講演から始まる。秋田谷先生が所属するNPO雪氷ネットワークというのは、大学を退職した研究者とかが大学ではもうできないような金儲けにならない仕事をするための組織らしい。知らなかった。はじめに、全層雪崩のクラックの下には絶対に入らないようにとのこと。表層雪崩について、雪崩を引き起こす弱層を犯人に例えて話していたのが面白かった。犯人は整形手術で顔を変えてしまうように、弱層も時間が経つと変わってしまうらしい。事故に遭わずに済んだら犯人の写真を撮るように言われた。弱層になる表面霜は日射と放射冷却でできるので、水蒸気が凍ってできる樹霜ができてるときは、表面霜もできていると考えるべきらしい。あられが雲粒が多量に付きまくったものだとは今まで知らなかった。弱層のことを散々犯人扱いしていたので、雪の変態と聞いたらついヘンタイのことだと思ってしまった。定性的な話としては、晴天が続いた後に吹雪になると、積雪の下に弱層ができてると考えれるみたいだ。日照と降水、風速、気温といった気象情報を調べることで、弱層をある程度予測できそうだと思った。危険を回避するには、雪を科学の目で見る知識と訓練が必要だと改めて納得した。朝、車の屋根に積もった雪を見るだけでも、危険の回避につながるのだと。

秋田谷先生は先週の藤村さんが話していたカナダにおける雪崩情報の共有について触れていた。確かに、バックカントリーガイドをはじめ個人で冬山へ入って楽しんでいる人も多いのだから、それぞれが調べた情報を上手く集めて公開する仕組みを整えることができれば、北海道でもいい線行くんじゃないだろうか。

10分の休憩を挟んでニトヌプリ雪崩事故の報告。「blog『ただ乗り』の管理人」として紹介されていた。斜度などの様子が分かりやすいようにと映像を使ってもらったけど、むしろ「安全ではない」斜面を滑ってるいけない子に思えて来た。う〜ん、いろんな意味で恥ずかしい。

NOASCのツアーメンバーが10人は、少し多いと思った。この人数で行動するのは大変そう。ガイド2人ともスノーボードだったけど、スキーカットのことを考えたら、やっぱりガイドはスキーの方がいいということはないのだろうか。メンバー5人が巻き込まれた雪崩が誘発によるものなのか自然発生なのかは分からないようだけど、一度に5人が疎林の中の狭いオープンバーンをトラバースしてるのが、もしかしたら積雪に大きな加重をかけたのかもしれない。そんなことを感じた。

埋没した人は、うつぶせになっているのに気付いて、埋没してしまう直前に頭をグイッと持ち上げたことで、顔の前に隙間ができたらしい。こういう機転が利くだろうか。大西さんも言っていたけど、セルフレスキューはさすがだと思った。ガイド以外のメンバーがみんなピープスDSPという高性能ビーコンを持っていたのもすごい。埋没者の救出はV時シャベリングという効率のいい方法で行ったらしい。埋没者を救出してからも、二次雪崩に備えてホイッスルを持って監視する役も配置していたそうだ。こんな手際のいいセルフレスキューができる自信はない。それでも、大西さんは無線機とGPSを持っていないことを指摘していた。

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問題点として、悪天候時の入山、疎林の急斜面のトラバース、集団による危険な斜面へ侵入を指摘していた。ニトヌプリが「安全なエリア」だという油断があったのではないかと。登行中でも雪崩を警戒すべきと話していたけど、これはルートファインディングの観点からはたぶん当たり前なんだろうけど、先行トレースがあるとついつい疎かになってしまうのは確か。一方で、最新の雪崩装備と高度なセルフレスキューを評価していた。さらに、事故後にNOASCが雪崩事故防止のために独自のリスクスケールを整備したことも、ツアー会社の事故後の対応として評価していた。

報告を受けて森林総合研究所の山野井克己さんから、雪崩発生までの積雪と気象条件についての解説があった。積雪の温度を計っても、雪崩事故が起こった時点とはちがうと自ら語っているし、硬度の定量的評価がよく分からないので、積雪については弱層テストと概ね一致すればいいのかなと思った。気象条件については、やっぱり事故の前の日照と降水、風速、気温を見比べると、放射冷却でこしもざらめ雪や表面霜のような弱層が成長した直後の降雪が、上載積雪となって雪崩につながるようだ。自分で調べるのは面倒だけど、案外、定性的には分かりやすい科学的評価ができそう。札幌と倶知安のデータが結構似ているらしく、札幌の天気を参考にするのも意外と効果的なようだ。

ニトヌプリの報告が長引いて、羊蹄山の報告が始まるのが遅くなった。今度は写真提供が「SNOWFORESTのたかさん」という紹介を聞いてちょっとがっかり。「ただ乗りのえっちぼんさん」と紹介してもらえなかったことに気付いて、またもや苦笑い。どうやら「えっちぼん」というハンドルネームはNGのようだ。

羊蹄山の雪崩は京極コースだけど、滑ったことがあるのとは反対側の千枚石沢で起こった。起伏があって、スノーボードで当て込むのが楽しいらしい。大西さんが強調していたけれど、こっちのメンバー構成は自分たちと同じような個人の集まりで、役割分担や装備の点検、ルート決定や登山計画書の未提出など、適当なところは大してちがいはないようだ。決定的にちがうのは、みんな冬山でのスキルが高いことだろうか。

装備もしっかりしていて、無線機とGPSの携帯のおかげで、雪崩で埋没後にすぐに発見、収容して、素早いセルフレスキューを行っていた。これまた自分には同じことができるという自信がない。夜間にも関わらず救助隊と合流できたのも、GPSでかなり正確な位置を報告できたかららしい。

弱層テストはコンプレッションテストを行って、評価2のグリーンライトらしいので、普通なら滑る程度の安定度だったようだ。けれども、大西さんはこういう状況で3回は雪崩に巻き込まれているらしく、安全だという評価が出たときは、スキーカットをすべきだと言っていた。あるいは、場所を変えて複数回テストすべきだと。弱層テストで安全な評価が出た場合は、さらに何度か場所を変えて再テストを行い、さらにスキーカットをする。この点に関しては、自分たちはメンバーそれぞれがテストを行い、一番悪い評価を採用するか、もう一度別の場所でテストを行っているので、まあ、悪くないとは思う。

このときは視界が悪い中での行動だったので、お互いの視界の範囲内で行動すべきだと指摘していた。埋没地点が分からないと、初動で遅くなるかららしい。この点も、お互いに撮影することが結果として行動の範囲を視界の中に収めるのに役立っている。斜面に一人ずつ入るという点でも。

大西さん曰く、このパーティーは装備がとても充実していたらしい。それでも当事者は自ら不備を指摘しているらしく、携帯電話の予備バッテリー、ザイル、救急用具、ストーブ・マットを持つべきだと言っているそうだ。GPSも3人が持っていたらしい。警察や他のメンバーとの連絡でも、行動のログとしても威力は大きいようだ。

また、食料が豊富だったこともよかったようだ。当事者から、スキーパンツはフルオープンにすべきという話があったらしい。不詳部位を確認しやすいそうだ。また、CW-Xが止血効果があったかもということだ。充実した装備だけれど、大西さんはヘルメットを着用した方が、雪崩に巻き込まれたときに被害を小さくできると話していた。

問題点としては、雪崩のリスク評価の不十分、視界不良での軽卒な滑降があげられた。一方で、自分も感心したビバーク体制に必要な装備とスキルが評価されていた。さらに感心したのは、当事者が、今回の事故で千枚石沢の知名度が上がって事故が増えることを懸念している点だ。八ッ場ダムの建設中止で観光客が増えるのとは訳がちがう。また、いつ雪崩に遭うか分からないというリスクを覚悟すべきという指摘は、雪崩事故に遭遇した当事者からのものだけあって心に重く響いた。

大西さんの報告を受けて、ちょっと前まで気象庁?にいたという北大環境科学院(昔の地球環境科学研究科?)中村一樹さんが積雪と気象データについて解説してくれた。この時の雪崩の弱層は、弱風時の降雪による雲粒なし結晶だと考えられるらしい。しかも、その弱層は北村、札幌、定山渓、中山峠、倶知安、京極のかなり広域で形成されていたそうだ。その直後の多量の降雪で、その弱層が覆われた保存され、事故当日に雪崩を引き起こしたようだ。

中村さんは過去の研究を調べて、低気圧前面と温暖前線による降雪が、雲粒なし結晶を生じさせると説明していた。逆に冬型では対流性の雲になり、雲粒が付きやすいのだそうだ。やっぱり気象情報を調べることが重要そうだ。気象庁のサイトの紹介もあったので、今シーズンは気象情報にも今まで以上に注意してみよう。けれども、冬の降水量に関してはあまりデータを信用しない方がいいらしい。雪は雨とちがって風が吹くと測定しづらいかららしい。ちなみに、降水量が1 mmのときは、湿った雪なら1 cm、乾いた雪なら2-3 cmらしい。

講演会の最後の締めは、やっぱり阿部さんだった。完全に一番いいところを持って行っているように感じた。冬山でミスを犯した結果、死ぬことを覚悟しなければいけない。好きで山へ行っているからいいんだと思ってはいけない。絶対山で死んではいけない。また、人間の力は自然には敵わないから、感性を鋭くして自然を見て、最後は本能で決めるのだと。命と本能が補足されて講演会が締めくくられた。阿部さんのカリスマ性を感じた。やっぱり他の人にないオーラがある気がする。気のせい?

阿部さんも話していたけれど、参加者に若者と女性が増えたそうだ。最年少は気象予報士の高校生だとか。まあ、気象予報士なんてタレントでも受かるし、記憶力がいい高校生が受かっても不思議じゃない。どっかの教授みたいに、中学生でアマチュア無線に受かるみたいなもんでしょ。一方で、気象台で立派に予報してる人が受からなかったりする。けど、確かに、その高校生が今度どうなるのかには興味が湧く。高校生はともかく、本当に20代が多いように思った。

今回の講演会では自分の山行について検証したい点がいろいろと見つかったので、冬山シーズンインする前にちゃんと調べてみよう。反省することが多いので。

【2009/11/9 訂正】
発表者の大西さん本人から本文記述の誤りを指摘していただいたので訂正。

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コメント

3月に帰った時、S倉さんと羊蹄京極で雪崩が起こった沢のすぐ下部を滑ったかもしれません・・。

僕がヒヨッて1350以上から上には行きませんでしたが、がんばっていたら事故現場を何も知らずに滑っていたかも・・と思うと今年も気を引き締めなければ。

投稿: やっち | 2009年11月 8日 (日) 07時47分

>やっちくん

アバランキングの上位2名がそろうと
相変わらず際どいところだったようだね。

報告で使用されたニトヌプリの映像も2007/3/18。
積丹岳で雪崩事故が起こった日。
会場で気付いた人いたかな?

他人の事故でいつも気を引き締めているけれど
いつ自分が事故の当事者になるか分からないなぁと思うよ。
埋まったときはお互いさま。

投稿: H本 | 2009年11月 8日 (日) 21時43分

資料ありがとう!
興味深く読ませてもらいました。
ほんとに明日はわが身だね。
心引き締めて今シーズンも楽しみます。

投稿: エンサヤ | 2009年11月 8日 (日) 23時04分

こちらもありがとう。

いけない子にならないように気をつけよう。

祝公式デビュー

投稿: えすき | 2009年11月 8日 (日) 23時33分

この度はお世話になりました。
貴重な現地映像のおかげで、ニトヌプリ雪崩事故の概要が分かりやすく伝えられと思います。
こちらでも講演の内容をまとめて頂いて感謝しています。
一点だけ、雪崩のリスク判定について、
「安全だという評価が出たときは、スキーカットをすべきだと言っていた。あるいは、場所を変えて複数回テストすべきだと」ではなくて、
「弱層テストで安全な評価が出た場合は、さらに何度か場所を変えて再テストを行い、さらにスキーカットをする」でした。
おっしゃるとおり、複数人で弱層テストをして、その中から最悪の結果を選択するというのが効率的です。

投稿: 大西 | 2009年11月 9日 (月) 06時37分

>エンサヤさん

こっちの講演会の方が
実際に山でどう行動するかの指針が得られてよかったね。
もちろん山へ行く前の情報収集と計画作りも。

阿部さんは「山で死ぬな」と言ってたけど
「山で怪我をするな」とも言っていた。
お互いに気をつけよう!

投稿: H本 | 2009年11月 9日 (月) 07時28分

>えすきくん

ちゃんとリスクマネジメントを行って滑るように心がけよう。
大雪が降って喜ぶばかりじゃなく
同時に雪崩リスクも高くなっていることも意識したり。

デビューはしてないでしょ。
埋まったら公式デビューなんじゃない?

投稿: H本 | 2009年11月 9日 (月) 07時36分

>大西さん

発表お疲れさまでした。
書かないと忘れてしまうので勝手にメモしましたが
講演内容をまちがって書いてしまったようで
大変申し訳ありません。
たまたま安全だという評価が一度出ただけでスキーカットしては
かえって危ないですね。

後で気付きましたが
弱層テストのために複数人が一度に斜面に入るのは危険でした。
数人のパーティーで安全に効率よく弱層テストする方法を
考えてみようと思います。

投稿: H本 | 2009年11月 9日 (月) 08時09分

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