講演会「雪崩から身を守るために」の報道に思う
先日参加した講演会「雪崩から身を守るために」についてのSTVと道新による報道を見て、ちょっと考えた。
STVは講演会終了後すぐに夕方のニュースで講演会の模様を放映したようだ。今日、11/12時点ではまだ動画ニュースが見れる。
雪崩から身を守るには
本格的な冬山シーズンを前に札幌で、きょう「雪崩から身を守るために」と題した講演会が開かれました。
この講演会は、雪崩事故防止研究会が登山者やスキー場関係者など冬山に関わる人を対象に開催しました。講演会では昨シーズン道内で起きたニセコ山系ニトヌプリと羊蹄山での2つの雪崩事故について調査チームから検証報告されました。
また事故当時の積雪状況や気象データのほか、さまざまな角度から雪崩から命を守る方法について報告されました。
(2009年11月 7日(土)「リアルタイムサタデー」)
映像は講演会の会場の隣で行われていた冬山道具の体験の様子から始まり、参加者と発表者、スライドの順に入れ替わって終わる。発表者の声は放送されずに、講演会で話された内容の「概要」をキャスターがナレーションしている。
講演会の翌日、8日(日)の北海道新聞の朝刊には写真入りの記事が載っていた。
2月の雪崩事故検証結果を報告 防止研の講演会
本格的な冬山登山シーズンの到来を前に雪崩事故防止研究会(札幌)は7日、雪崩事故から身を守るための講演会を札幌市産業振興センターで開き、登山やスキーの愛好家ら約200人が基礎的な知識を学んだ。
日本雪氷学会北海道支部雪氷災害調査チームが、後志管内蘭越町のニトヌプリ(1080㍍)で今年2月、ツアーの4人が雪崩に巻き込まれた事故などの検証結果を報告した。
調査チームの大西人史さんは、事故時に風雪や雪崩の注意報が発令中だったことを踏まえ、「雪崩リスクの高い悪天候時の入山であり、集団で危険な斜面に入った」などと問題点を指摘した。元北大低温研究所の秋田谷英二さんは雪崩が発生しやすい状況として、気温上昇や降雨時を挙げ、注意を呼びかけた。
(2009年11月8日(日)「北海道新聞 朝刊 33面 第3社会」)
調査チームによる事故の検証結果から分かった問題点と専門家による雪崩への注意喚起について伝えている。
北海道中が日本シリーズ一色のときに、テレビも新聞も短い時間と狭い紙面を割いて講演会の報道を行ったのは素晴らしいと思う。けれども、テレビ(動画ニュース)が伝えるのは講演会が開かれたことだけで、ニュースのタイトルの雪崩から身を守るには
に答える内容がない。新聞も、冬山へ入らない一般の人がこの記事だけを読むと、風雪や雪崩の注意報が発令中
の時に入山したのが問題だと単純に考えてしまうだろう。また、雪崩が発生しやすい状況として、気温上昇や降雨時を挙げ
ているのは、これから始まる本格的な冬山登山シーズンではなく、春山シーズンの全層雪崩への注意ではなかっただろうか。配布資料にもしっかりと登山やスキーで恐ろしいのは「表層雪崩」
と書いてある。
注意報については、ニセコなだれ情報によるものとちがい、実際に雪を観察していない気象台が発令する注意報は役に立たないということが去年の講演会で専門家から指摘がある。実際、北海道で一冬過ごせば、大雪が降る度に、春にはほとんど毎日のように雪崩注意報が発令されているのに気付くはずだ。けれども、一般の読者は、雪崩注意報が出ているときに山で雪崩事故に遭った場合は自己責任だと簡単に考えてしまうかもしれない。確かに、冬山には自己責任という側面が強いと思う。それゆえ、今回の講演会をはじめ、雪崩の研究者や、事故の当事者になる可能性がある登山者が、雪崩による事故とその被害者を減らすための活動に自主的に取り組んでいるのだろう。今回、検証結果が報告された二つの雪崩事故でも、非常時とは思えないほどの適切なセルフレスキューによって死者が出なかったことを大西さんは強調していたが、このことはこれまでの活動の成果であると思う。それにも関わらず、この記事は、そうした活動をかえって一般の人たちから孤立させるかもしれない。その点でとても残念だ。
北海道の中でも、講演会の開かれた札幌は200万人近い人口の大都市にも関わらず半年もの間雪に閉ざされる。雪を厄介者として考えるのではなく、冬や雪の楽しみ方、付き合い方を北の生活館などでの活動を通して広めようとしているのが秋田谷さんだ。講演会の会場へ集まった多くの人たちも、登山やスキー、スノーボードなど、それぞれの方法で冬を楽しんでいるはずだ。夏の2割ほどにも落ち込む冬の観光客を増やすことは、観光が基幹産業になっている北海道の経済にとっても重要だろう。冬山へ行かない人も含め、同じ北海道で暮らし、長い冬を楽しく過ごす仲間として雪による災害や事故を共に減らして行こうという社会の流れが生まれることを期待する。日本ハムファイターズの応援でこれほど盛り上がれる北海道ならば可能なのではないだろうか。そして、そのような流れを作る手助けをすることは、北海道のジャーナリズムが果たすべき役割の一つだろう。講演会の主旨を理解しているなら、たとえ、発表者の写真を記事から削ったとしても、講習などの案内をして欲しかった。
自分が今回の講演会で一番重要なテーマだと感じたのは情報だ。森林総合研究所北海道支所の山野井克己さんと北海道大学大学院環境科学院の中村一樹さんは、それぞれ気象庁が公開している気象データから見た雪崩リスクの予測の有効性について説明していた。また、講演会の最初に「雪崩の基礎知識」について講演した秋田谷さんは、カナダ雪崩協会による雪崩の情報共有を例に挙げて、研究者の立場から雪崩の情報提供を求めていた。これらの話から、雪崩を事前に避けるための情報と起こった雪崩を検証するための情報の両方を効果的に集めることが、雪崩事故を防止するために必要だということが分かる。このことをテレビや新聞が情報として伝えなかったことは皮肉なことだ。
現在、カナダ雪崩協会ほどではないとはいえ、北海道雪崩ウェブデータベースという雪崩情報を共有する試みが北海道雪崩研究会によって行われている。今後、このような取り組みが発展して、近い将来、阿部幹雄さんが目指すように「北海道が雪崩事故防止の先進地域になる」ことを願う。
なーんちって。
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