フリーソロのスリル
チケットを買ってから待つこと1ヶ月。ようやくバンフ・マウンテン・フィルム・フェスティバル・イン・ジャパン2009がやって来た。
外は生憎の雨で、End of the Lineのときよりは会場に空席が目立った。寝不足なので暗くなったら寝るんじゃないかと心配していたら、案の定、プログラムAの途中で寝てしまった。
最初の作品の「The Red Helmet」は、赤いヘルメットをかぶった少年が何かするのかと期待してたけど、ヘルメットをはずして水に飛び込んだだけだった。それぞれ赤いヘルメットをかぶったアウトドア・スポーツの映像はそれなりに迫力はあるものの、ストーリーがつまらない。オープニングには物足りない気がする。
「If You're Not Falling」も物足りない。クライミングやっていて分かっている人はちがうかもしれないけど、素人にはすごさとか大変さがあまり伝わって来なかった。
2本続けてイマイチだったので、「Seasons」は眠気のピークへ突入。気付いたら終わっていた。かなりショックだ。25分間も寝ていたみたい。えすきくんによると、それなりに迫力があってまあまあ面白かったみたいなので、ますますショックだった。
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目も冴えて気合いを入れ直して「Mountain Town: The Cowboy and the Park Goddess」を観た。雪崩事故の話は他人事ではないので、自然と気が引き締まる。とはいえ、雪崩事故が起こったボウルにリフトを設置して滑走できるようにするってのがすごい。雪崩コントロールをちゃんとやってるからということだろうか。ニセコの水野の沢って、こういうのを目指しているのだろうか。ジブアイテムを作るところを見たのはこの映像が初めてだ。X-Gameの映像に迫力がないし、ジブがそんなに楽しそうには見えなかった。
一番楽しみにしていた「Red Gold」は、パタゴニアも力を入れて薦める長編。世界最大のサケの繁殖地の源流で鉱山の採掘が計画されていて、開発推進派のコメントを交えながら、サケを含めた流域の自然の恵みで生きる住民のドキュメントだった。漁業やガイド業で生計を立てている反対派の住民に対して、鉱山開発による新たな需要や雇用に期待する住民はほとんど取り上げられていなかった。推進派の住民は少数派と考えていいのだろうか。専門家らしき人たちのコメントが出てくるけれど、科学的な説得力がなかった。生態系は変化に弱くて一度壊れたら元に戻せないというのは分かるけれど、鉱山の影響をもう少し具体的に例で示して欲しい。公害発祥の地である我らが日本では、足尾鉱毒事件からはじめて四大公害病まで小学校でしっかり学ぶので、物足りなさを感じる。
世界最大の露天掘り銅山(ビンガム銅山?)の映像には息を飲んだけど、鉱山による被害についての説明もないので、生態系が大きく破壊されるだろうと予想するくらいしかできない。住民の生活の豊かさを通して観る人の感情に訴えて開発反対への賛同を求めようとするドキュメンタリーのように思えた。
この映画では、住民の間の対立は描かれていない。六ヶ所村のような悲惨な対立が起きていないことを願う。
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はじめ、この映画では鉱山の採掘による被害で苦しんでいる様子が報告されるのだと思い込んでいたけれど、まだ開発は行われていないということが分かってホッとした。住民の反対があろうが裁判が起ころうが、国や自治体が計画すればアセスメントも形だけですぐに開発が始まる日本とはちがうということだろうか。サケ漁で活躍する若い漁師が、開発を阻止するためにロースクールに入学したというのには胸を打たれる。まあ、それも日本のように司法が機能していなかったら意味ないんだけど。
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アラスカの先住民が獲ったサケで薫製を作っているところを観て、アイヌのことを思い浮かべた。日本政府によって漁業権を奪われたままのアイヌは、漁の伝統と技術を伝えることができなくなってしまったらしい。Red Goldのサケの薫製。同じく自然の恵みを受けて生活していたというのに。
プロブラムBの開演まで1時間半あるので、外へ軽く夕食を食べに行った。探すのも面倒で適当にお粥の店に入ったら、食べてる途中で飽きて気持ち悪かった。会場へ戻ると、プログラムBはAよりも客が気持ち増えていたような気がした。
「Daily Stripes」はテンポもスピード感もよくて、プログラムBのオープニングによかった。時間も長過ぎずちょうどいい。
次の「The Last Frontier-Papua New Guinea」では、洞窟探検の面白さがよく分からなかったけれど、カヤックは迫力があり、先がよく分からない中で下って行くところはすごい。カヤックで15メートルの滝を落ちても大丈夫とは知らなかった。スリリングなカヤックの映像で終わるのかと思ったら、そこはさすがにバンフ。開発によってパプアニューギニアの熱帯雨林がヤシ畑に変えられ、先住民の文化と生活が失われて行くことを伝えていた。みんながこのことと無関係ではないというメッセージは、どれくらい会場へ伝わっただろうか。
「The Fine Line」はDVDで何度か観ているのけど、やっぱり雪崩の映像の迫力はすごかった。巨大な雪崩に巻き込まれるスキーヤーやボーダー。観ているとゾッとする。そして事故被害者の回想は、恐ろしい光景を嫌でも想像させられてしまう。また観て見ようと思った。
雪崩の恐怖で目が覚めた後で上映されたのが、グリーンランドの農薬汚染を告発する「Silent Snow」だった。世界中から海流によって運ばれた有毒物質が、グリーンランドのアザラシを汚染し、そのアザラシを食べる先住民の健康を蝕む。東アジアからも流れて行っているとあったけれど、いったいどんな物質がどれくらいなのだろう。気になる。海洋汚染による公害は、やっぱり日本人は水俣病で経験済みの話だ。それが世界規模で起こっているとすれば、とても恐ろしい。まあ、マグロの汚染はもう有名だけど。冷戦時代に繰り返された核実験で、すでに地球は汚染されているし。映画では温暖化によって湾に氷が張らなくなり、犬ぞりで移動できなくなったことも描かれていた。そして、村が閉鎖される。
ちょっと気持ちが沈んだところで、休憩を挟んで「The Sharp End」が始まった。クライミングで50分以上は長いと思っていたけれど、映像はスリル満点でシーンもテンポよく変わって全然退屈しなかった。キチガイも上には上がいるといった具合に、どんどん危険さがエスカレートして行くように感じた。最後のフリーソロの映像。落ちてたら映画にはなっていないと分かっていても、手に汗握らずに観ていられない。クライマーの息づかいがこっちまで緊張させる。10mの高さが恐いので、たぶんリードクライミングすらやらないと思うけど、クライミングやらない人でもかなり面白い作品だと思う。今年の一番はこれだな。
今年のバンフは自然保護などのメッセージ性が強い作品が去年よりも多かったように感じた。深刻なのは経済だけじゃなく、自然環境もということなのだろう。スキーの映像ならDVDとかで見れるし、逆に他のスポーツとかの映像はなかなか見る機会がないので、こうしてバンフを観ると知らないことが分かって面白い。来年も観に行けるといいけど。
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