あっNALだ
原作を読んでから10年。映画化された「沈まぬ太陽」を観て来た。
伯父さんに薦められて原作を読んだ気がする。それまでは村上春樹とか普通の文学作品しか読んでなかったけど、リアリズムを強く感じる社会派小説を初めて読んで、それまで読んで来た作品が色あせたように感じた。ノンフィクションというフィクション。実在の人物がモデルになっていると聞いていたので、作品のどこまでがフィクションなのだろうかと、読んだ後には恐ろしくなった。
沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)
著者:山崎 豊子 |
企業と人間―労働組合、そしてアフリカへ (岩波ブックレット)
著者:佐高 信,小倉 寛太郎 |
原作を読んだとき、映像化したらすごい大作になって面白そうだけど、内容が内容だけに絶対映像化はないと思っていた。ところが、なんと10年経って映画化された。実際、去年の夏に公開予定だったものの、日本航空広報部によって1年以上も公開が遅れたそうだ。これは観に行かないわけにはいかない。
原作も単行本5冊の大作。映画化されても3時間を超える大作で、中休みが入るほどの長さだ。昔の2本立て映画のようだ。でも、もちろん同じ料金なのでお得感がある。メンズデーだったのでさらにお得。
まずはじめに目を引いたのは「NAL」の文字。国民航空(National Air Line)の頭文字だった。原作を読んだときにはNALという表記を見たことがなかった気がするので、映画ならではだと思う。JALと一文字ちがいなので、どうしたってJALを意識してしまう。
原作の表紙の写真は、写真家の岩合光昭氏が撮影したサバンナの夕陽。表紙の通りに自分の頭の中にはアフリカのイメージが強かったけれど、映画は御巣鷹山のイメージが強かった。墜落事故へとつながる組合潰しや露骨な差別人事も描かれていた。会社や仲間のための組合活動は、会社を自分のために利用しようと思う人間には邪魔だということがよく伝わって来る。日本の大企業は程度の差こそあれ、辿った道は同じ。JALが今のようになったのも、事故後に体質改善を実現できなかったことも大きな原因なのだろう。改革が実現していたらと思わずにいられない。
正義や信念を貫くには多くのものを犠牲にすることを覚悟しなければいけないと映画を観て改めて思い知る。これを観て組合活動をがんばろうという労働者はなかなかいないだろう。今、非正規労働者の間で労働組合が盛り上がって来たのは、おそらく崖っぷちだからなのだと思う。そういう意味では、派遣切りに続いて正規切りも始まった今は、正規も非正規も関係なく崖っぷち。皮肉な話だけれど、ヨーロッパ並みに労働者の権利が保障される社会の実現に向けた好機かもしれない。
蟹工船・党生活者 (角川文庫)
著者:小林 多喜二 |
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