神田日勝記念美術館
前から一度行ってみたいと思っていた「神田日勝記念美術館」へ男鹿和雄「ウミガメと少年」展を観に行って来た。
神田日勝の絵を初めて見たのは、今年のはじめ、北海道立近代美術館で「フレッシュ・アイズ」という展示をやっているというテレビの紹介を見たときだった。そのとき紹介された神田日勝の作品は「室内風景」で、新聞が貼られた壁に囲まれた狭い空間に膝を抱えてうずくまる男の表情が印象的だった。学生による展示方法は変わっていて、絵に描かれた人物と同じ「風景」を体験できる「室内」が絵の前に用意されているらしかった。「エコール・ド・パリ 異邦人の夢」を観に行ったときに、「フレッシュ・アイズ」も開催されていたので、生でその展示を観る機会に恵まれた。せっかくなので、靴を脱いで箱の中の「室内」に入ってみたけれど、目の前に展示してある「室内風景」と同じように見つめ合っていると思うと不思議に感じたのを覚えている。
その後、再び神田日勝の絵が目に留まったのは、新聞で神田日勝記念美術館館長の小檜山博の記事を読んだときだった。そこでは神田日勝を「北海道のミレー」と讃えていた。それと前後して札幌芸術の森美術館で開催されていた「絵画と写真の交差」でミレーの絵を観ていたので、「北海道のミレー」という文句に惹き付けられた。記事に載っていた絶筆の「馬」の存在感に強い印象を受け、さらに神田日勝のプロフィールを知り、一度記念美術館へ行ってみたいと思うようになった。
とはいえ、記念美術館は鹿追にあるので、札幌からはかなり遠い。とても日帰りでは行く気にはなれない。そんなわけで、これまでずっと行けずにいたけれど、今回、急遽家族で1泊旅行することになったので、この機会に行ってみることにした。というのは、今、ちょうど特別展で男鹿和雄「ウミガメと少年」展を開催していたからだ。去年、「男鹿和雄展」も観に行ってとてもよかったので、絶好の機会だった。
前置きが相当長くなったけれど、朝、9:30に札幌を出発して高速道路を走った。久しぶりの冬型の気圧配置で気温は低いけれど天気はまずまず。道路も乾いているので走りやすい。夕張ICまでは快適だった。けれども、下道を占冠ICを目指して進むと、さすがに山奥だけあって積雪が増えて来る。道路も凍結していて、久しぶりに本格的な冬道だ。再び高速道路に乗ると、しばらくして雪も降って来た。風も強く吹雪いている。ここは山の天気だった。窓から滑ると調子よさそうな山も見えて、名前が気になる。途中、除雪による渋滞で時間がかかったけれど、12時半には帯広へ着いた。積雪に驚く。30cmくらい深雪が積もっていた。とりあえず、昼食にめん吉で豚丼を食べた。ラーメンも食べたかったけれど、食べ過ぎなのであきらめた。
帯広から美術館までは1時間もかからずに着いた。鹿追には道東へ行く途中に何度か通っていたけれど、道の駅の側に神田日勝記念美術館があったのには全然気付かなかった。美術館は立派な建物だけどガラガラ。ほとんど客がいない。札幌の美術館は混んでいて自分のペースで観れないのが嫌だけれど、ここでは好きなように観れるのがいい。財政的にはヤバいんじゃないかと思うけれど。
展示室に入ると、まずは神田日勝の常設展示があった。労働者の大きくて太い力強い手足が印象的だ。馬の毛並みはとても艶やかに見える。静物もモチーフが空缶だったりして独特だ。後で展示室入口の横でビデオを観ると、ダイナミックな絵ばかりではなく風景画などはとてもきれいで、技術が高い画家だったのだと思った。「室内風景」を描き上げて、遅れていた農作業を無理して進めたせいで身体を壊して、そのまま32歳の若さで亡くなってしまったのはとても悲しいことだ。病に倒れることがなければ、もっとたくさんのいい作品を残していたにちがいない。
全体の展示の8割くらいは男鹿和雄の「第二楽章ヒロシマの風」と「第二楽章長崎から」、「ウミガメと少年」からの作品だった。いくつかは去年も観たのを何となく覚えている。水彩の柔らかいタッチが何とも言えずいい。原爆のきのこ雲という現実とのアンバランスが妙だった。画風は柔らかいけれど細かいところまでちゃんと書き込まれている。表現力がすごい。それにしても、沖縄の海岸の絵を見ると宮古島を思い出す。あの空気が描かれていた。展示は本の挿絵なので、順番に観ていくと物語が伝わって来る。文章がないので物語はかなり想像なのだけど、それが余計に絵の印象を強くした。
第二楽章―ヒロシマの風 角川文庫
著者:男鹿 和雄 |
第二楽章 長崎から (アートルピナス)
著者:男鹿 和雄 |
ウミガメと少年 野坂昭如 戦争童話集 沖縄篇
著者:野坂 昭如 |
宿へ向かうには少し早かったので、アートコレクション福原記念館へ寄ってコーヒーを飲んだ。ここにも神田日勝の絵があるらしいので、ついでに展示も見てみた。すると、「爆笑問題のニッポンの教養」で見た東京藝術大学・宮田 亮平学長の「シュプリンゲン」シリーズが置いてあって驚いた。平山郁夫の絵まであった。ラクダのキャラバンだった。神田日勝の娘が描いた然別湖かどこかの写実的な絵が上手かった。波打つ水面が写真のようだった。画家だったのだろうか。それにしても、これだけ集めた福原さんてすごい。
建物を出るともう日が暮れていた。
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