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凍る体 低体温症の恐怖

予習がてら、2年前に第1部だけ読んで放ったらかしていた「凍る体 低体温症の恐怖」をようやく読み終えた。

ニセコバフバフツアーに参加する前に、著者の船木さんがツアーの主催者だと聞いて、慌てて第1部だけ読んだ。当時は恥ずかしながら、クレバスに落ちて宙吊りにでもならなければ低体温症になんてならないと思ってたので、第2部まで読み進めなかった。ところが、今年8月のトムラウシ山での遭難事故のように、夏でも低体温症になる危険があることを思い知って、早く読まなくてはとは思っていた。

凍る体―低体温症の恐怖Book凍る体―低体温症の恐怖

著者:船木 上総
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200ページあるこの本の前半は、モン・ブランでの事故を中心に船木さんの自伝的内容で、後半はすべて低体温症について書かれた一風変わった本だ。低体温症については、体温がどうやって生み出されるかから説明が始まり、治療についてまで書かれている。冬山へ行くことを考えると、低体温症になることをどうやって予防するかが一番気になる。特に、冷え性で、冬山ではいつも手足が冷たくなって困っているから。

低体温症にならないためには、とにかく身体を冷やさないことだ。身体を冷やさない装備、行動を心がけることで、低体温症になる危険を少しでも小さくできる。熱の喪失が大きな頭部を中心に、寒冷から服装で身体を守る。そして、本文にstay dry = stay alive!とあるように、とにかく濡れないこと。雨、雪や氷が溶けた水、汗などで服装を濡らさないことが大事なようだ。濡らさないことで断熱効果を維持し、さらに、風によって熱の喪失が促進されないようにしっかりと服装で防風する。これらの熱喪失の三要素である寒冷、水、風を封じる。

同時に、身体が熱を作り出せる状態を維持するために、水分と食料を補給する。寒冷時は脱水症状になりやすいらしく、疲労が進んで末梢血管の流れも悪くなって凍傷にかかりやすくなるらしい。また、糖質を十分にとってエネルギーを確保する。腹が減っては何とやらだ。同じ糖質でもブドウ糖などは消化管からの吸収が速く、血糖を上げる即効性があるそうだ。一方、デンプンなどの多糖類はゆっくり吸収される。ただし、血糖は安静時でも3分しかもたないので、肝臓にグリコーゲンを蓄える必要があるそうだ。でも、食べてから最低でも10時間かかるらしく、前日の食事で炭水化物を多くとっておくことが大事なのだそうだ。低体温症への備えは、前日の食事からもう始まっている。

意外というか、誤解していたのはアルコールの効果。アルコールのカロリーはエンプティカロリーと呼ばれ、すぐ熱となって放出されるので身体を温める効果は一時的。むしろ、皮膚血管を拡張させ、身体の熱がより多く失われるので、低体温症にかかったり悪化したりするようだ。また、身体の震えを弱めて、体温調節の中枢である視床下部の機能も低下させるらしい。寒いからといってうっかり酒を飲んだら、痛い目に遭うというかかえって寒い思いをすることになりそうだ。

低体温症の症状は、前駆現象として身体の震えが始まり、次第に震えを止められなくなるらしい。この震えには心当たりがある。中岳温泉に入ったときだ。人肌くらいのぬるい温泉で大して身体が温まってないのに、風が吹きぬける零下の世界に素っ裸で立ち上がり、慌てて身体を拭いてテントへ駆け込んだ。寒冷、水、風と熱喪失の三要素がすべてそろっていた。思い返せばまさに自殺行為。ちなみに、軽症では、動作・意識・震えがそれぞれ、ふらつくが歩けて、無関心や眠りがちで、震えている状態のようだ。

この低体温症は雪崩事故とも関係があった。雪崩事故というと、セルフレスキューでは埋没してから15分以内に救出するということは頭に入っているけれど、その間に埋没者がどのようになるかをあまりちゃんと考えてなかった。雪は埋没者の体温を1時間に3〜5℃の速度で奪って行くので、エアポケットがなくて窒息死していなければ、救出が遅れると低体温症にかかっている可能性が高い。万一埋没したときのことも考えて、滑降時は保温をしっかりしておくべきだと思った。また、救出した埋没者を素早く保温する準備もしておかないと、かえって悪化させる可能性もある。掘り出した後のこともちゃんと考えておこう。

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