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尻別岳の雪崩事故

道新の記事から、調査報告が出る前に試しに勝手に推測してみる。

尻別岳で雪崩、山スキーのツアー客1人死亡 (01/16 22:56、01/17 08:26 更新)

 【留寿都】16日午後2時40分ごろ、後志管内留寿都村の尻別岳(1107メートル)で雪崩が発生、山スキーツアー中の一行9人のうち、女性ガイド1人と男性客1人が巻き込まれた。ガイドは自力で脱出、札幌市南区簾舞(みすまい)2の1、無職菅原哲郎さん(66)はほかのツアー客が救助し道警ヘリで札幌市内の病院へ搬送されたが、間もなく死亡が確認された。

 倶知安署などによると、一行は札幌市中央区の旅行会社が企画したツアー客で、道内外の30代~60代の女性2人と男性6人。スキー場以外の圧雪されていない斜面を滑るため、午前10時ごろに入山した。南側の斜面で一行が滑走を始めようとし、先頭のガイドに続き菅原さんが滑走し始めた瞬間、雪崩が発生したという。

 菅原さんは電波受発信装置(ビーコン)を持っており、約1時間後に救出された。ほかの8人にけがはなく、午後5時45分ごろ自力で下山した。

 現場付近は2メートル近い積雪があり、札幌管区気象台によると当時、尻別岳を含む羊蹄山ろく一帯には雪崩と大雪の注意報が出ていた。

以上のWeb掲載記事に加えて、2010/1/17の朝刊には、「地元の山岳ガイド関係者」の話が載っていた。

尻別岳は急斜面が多く、上級者向け。入山者はあまり多くないが、踏み荒らされていない新雪の斜面を求め入山する愛好者もいる。


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雪崩が起きた尻別岳

尻別岳へはに一度登ったきりで、冬に滑ってみたいけれどアプローチが分からず雪崩も恐いため、これまで一度も滑ったことがない。滑りたいので今シーズンはネット上で情報を探していたけれど、去年に比べて入山者が何となく増えているように感じていた。

夏に登ったときには、スキー場から尻別岳へ続く尾根から、尾根の東側で尻別岳の南側の斜面を見下ろすと、木が生えていないオープンな斜面の下部には倒木が溜まっていて、雪崩の跡のように見えた。南斜面は国道230号線からもよく見えるので、春はクラックや全層雪崩の跡が見える。雪崩事故が発生した尻別岳の南側の斜面が、この尾根の東側の南斜面だったとすると、かなり急な雪崩地形で滑走していたと考えられる。

状況は記事によると、9人の一行のうち、はじめに1人のガイドが滑り降り、次に1人客が滑った瞬間に雪崩が発生して、その2人とも巻き込まれたらしい。その結果、ガイドは自力で脱出したが、客はビーコンを持っていたけれど、救出まで約1時間かかったようだ。救出直後の状態は分からないが、搬送先の病院で死亡が確認され、他の8人の客は自力で下山したそうだ。

雪崩を誘発したのが滑った客である可能性は高いけれど、発生区がその客の足下なのか、その他の客の足下なのか、あるいは、全く別の場所なのかは記事からは分からない。二人が巻き込まれた規模から判断すると、点発生雪崩ではないだろう。先に滑ったガイドが巻き込まれたことから、ガイドの予想以上に広い幅でスラブが破断して雪崩が発生したか、ガイドが走路上にいたと考えられる。ガイドが自力で脱出したが、流されている最中なのか、デブリに埋没してからなのかも記事からは分からない。ビーコンの所持と救出に約1時間かかっていることから、客は埋没していたのだろう。ビーコンによる捜索をガイドが行ったのか、客が行ったのか、両方が行ったのかも分からない。とはいえ、1人の救出に1時間というのは長いので、ビーコン捜索が上手くできなかったか、よほど深く埋まっていたのだろう。

事故前後の気象状況なども調べてみる。尻別岳近くの喜茂別のアメダスデータによると、事故前日の15日の18時から断続的に強く雪が降り続き、事故当日の16日入山時の10時までに積雪は100cmから123cmまで23cm増加している。風向は北西から西の間で変化し、風速は最大でも3m/sで、それほど強くはない。試しに15日21時16日9時の風の観測データを見てみた。見方がよく分からないけれど、尾根上は風速10m/sは吹いていると考えていいのだろうか。風向と降雪量を考えると、風下にあたる尾根東側の尻別岳南斜面には、吹き溜まりが発達していることが予想できる。

吹き溜まりの下の積雪を予想するために、時間を少し遡って気象データを調べてみる。14日から事故当日までは気温の大きな冷え込みはないが、北村と同じく、12日には最低気温が-19.2℃13日には-21.9℃まで冷え込んでいる。12日は風が弱く、日中は日射があった。12日以前に降雪が数cmあるため、わずかな降雪、昼間の日射、夜間の放射冷却というしもざらめ雪が成長する条件が整っている。少なくとも、12日から13日にかけてしもざらめ雪の弱層が発達しているように思われる。

事故前日からの降雪が上載積雪となって、この弱層の上で滑った可能性が考えられる。また、北村での観察と同じような弱層の形成がみられるので、1/4に尻別岳でもあられが降っている可能性もある。その場合は、あられ混じりの雪が弱層になる可能性もある。1/4の積雪は100cmで、その後降雪は少なく日射と圧密で積雪は15日にも100cmで、ほとんど増えていない。おそらく、弱層テストを行えば、これら二つの弱層が見つかると考えていいだろう。

JAN北海道雪崩研究会雪氷災害調査チームが現地へ調査へ入るそうなので、報告から積雪の情報もそのうち分かるだろう。尻別岳の雪崩はどのように発生したのか。あとは、「旅行会社」からの報告が早くあるといい。記事では「旅行会社」の名前がなかったが、今日「旅行会社」のサイトにコメントが載った。

気象台の雪崩・大雪注意報はともかく、当日にかけて冬山経験のある人ならみんな警戒する気象状況だった。自分だったら斜度が緩い樹林内に目的地を変更しているだろう。そんな気象状況下でのツアー登山で、8人の客を1人のガイドで面倒を見なければいけないという状況だった。雪崩リスクを下げる余地がまだ残っていると考えられるので、今度の事故もヒューマンファクターが大きいと思う。当事者にとってはとても気の毒なことだけど、登山者それぞれがこの事故から学び事故を減らす行動へつなげることが何より大事なのだと思う。何もしないでいれば、次は自分かも、仲間かもしれないのだから、少しでも雪崩リスクマネジメントの技術を高めたい。

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