SNOWPACKモデルによる雪崩発生予測
今年の講演会「雪崩から身を守るために」もいまいちだった。
相変わらず開会18時と早かったけれど時間ギリギリで間に合い、会場をぐるっと見回して見つけた藻—リスさんの隣へ座る。しばらくして、恒例の秋田谷先生の「雪崩の基礎知識」が始まった。
導入は、事故で亡くなったのが実は秋田谷先生の知人だったという手稲山の事故と、大学探検部のヒマラヤ遠征隊の事故。どちらもセルフレスキューの道具があれば助かったかもしれないという話。以前は国産の雪崩ビーコンもあったけど、今はシャベルもビーコンもすべて輸入。救助用具の開発で立ち遅れている日本は、命が安い国だと話していた。まあ、日本で命が安いのは雪崩に限らないけど。
おそらく北海道で一番有名な修士論文、馬場さんのニセコでの弱層の研究結果が今年も紹介されていた。でも、これってずいぶん前のデータだし、その年の天候にもある程度依存するし、数年おきにでも同じ場所で観察して、10年くらいの変化を確認してみると面白そうだ。ニセコのガイドと共同研究とかしてみたらいいのにと思った。他人事だから。
もらった資料に載っていた気象データは、2007年に起きた積丹岳での雪崩事故をひき起こした弱層を説明したものだった。確か、同じ日にニトヌプリで滑ってたような記憶があったので、せっかくiPhoneもあることだし「ただ乗り!」で調べてみた。すると、思った通り同じ日に同じあられの弱層を観察していた。積丹岳では死傷者も出てるから不謹慎ではあるけど、フィールドサイエンスとしては面白い。それに、運がよかったのか、慎重な行動が功を奏したのか、道具のちがいなのか、同じ吹雪の日に同じような雪で遊んでいたにも関わらず、生死を分けたことも。つくづく、現地で危ないと感じたときは無理しないのが身のためだと思う。
第一部が長引いたので、短い休憩を挟んで第二部がすぐ始まった。雪氷防災研究センターの山口悟さんによる発表だったけど、今年の講演会ではこの発表が一番面白かった。雪崩事故事例報告ということで、先シーズン11/30に立山・国見岳で起きた2名死亡3名怪我の雪崩事故の調査報告だった。後半の佐々木大輔さんの報告よりも、SNOWPACKという雪崩発生予測のための数値モデルの実用性についてが主な内容だった。一見、snow peakのパクりっぽく見えるけどちがうらしかった。
残念なことに、資料を配布してもらえなかったので詳細は分からないけど、気象条件から積雪安定度の時間変化を計算して、統計的にこの積雪安定度が2以下になると雪崩れやすいということが分かるようになるらしい。立山の事故でも滑り面を二つの弱層に絞ることができていたけど、計算から推測した弱層は実際に滑り面になった弱層よりも上の新しい層だということが、後の佐々木さんが報告していた。
このモデルは平地の積雪を考えたもので、斜面と平地での雪の積もり方の違いを考慮していないらしい。また、本来は現地の気象データから計算するのが理想だけど、そもそも現地で継続的に観測なんてされてないので、一番近い平地の観測データで代用している。高度補正はしていても、山の上と下では天候はかなり違うことが多いので、再現性は高くないようだ。
さらに、実際に現場で斜面を見上げているときや、斜面に立ったときのことを考えると、斜面の地形変化や植生など、数値モデルによる計算でどこまで対応できるんだろうと思うような要素がたくさんある。山口さんや佐々木さんが今回の報告で強く指摘していた、風による雪の移動も考慮されていない。学術研究としては面白いけれど、現場で本当に必要としている研究
になるには、長い道のりになるように思った。藻—リスさんに資料をもらったので、少し調べてみよう。
続く佐々木さんの報告は、事故に遭遇したのが自身の友だちだったということもあり、聞く側もやりづらい。ここ最近の雪崩事故防止研究会の事故事例報告は大西さんが努めていたので、毎年この時期楽しみにしていた。個人的にはスティーブ・ジョブズの次にKyenoteを使いこなしていると思っていたほど、毎回素晴らしい発表だった。客観的な考察で事故について整理されていて、発表はもちろん、資料を読むだけでも勉強になった。特に、雪崩事故防止でとても大事だと考えているヒューマン・ファクターについての考察が必ず入っているのがよかった。実際に自分が現場にいたらどう判断するかを想像しながら報告を聞くと、非常にためになった。
そんな発表を何度か聞いていただけに、今回の佐々木さんの報告は物足りなかった。大雑把に状況は分かったけれど、事故のポイントがはっきりしないし、同じような事故を避けるためにはどうすべきかということが上手く伝わって来ない。発表の中で出て来た話を、個人個人が自分で整理する必要があった。とりあえず、自分で理解したポイントは、まず、遠方から来た客を気遣ってツアーを強行したこと。急斜面のハイクアップ。周囲にある雪崩の危険の兆候を見逃したことなど。
事故が起きた場所はアクセスがよく、毎日かなりの人数が入るところらしい。20人くらいが列をなして登っている写真も見せられた。確かに、これなら安全だという錯覚をおぼえかねない。でも、この光景を見て思い浮かんだのは、2シーズン前の黒岳だった。
シーズン始めで他に滑れる場所が少なく、たくさんのバックカントリースキーヤーやボーダーが集まって、立山と同じように急斜面に行列を作って登っていた。途中、嫌らしい沢状地形をトラバースするときには、その沢の下を別のパーティーがトラバースしていたり。とにかく、みんな早く滑りたいからなのか、無秩序にピークへ向けて登っているように思えて気持ち悪かった。いくら自分で雪崩を警戒していても、これだけ人が多くては、他人が誘発した雪崩に巻き込まれかねないと感じた。それ以来、この時期黒岳には近づかなくなったし、人が多いような斜面はできるだけ避けるようにしている。まあ、パウダー争奪戦をしたくないってもの、安全面も含めてあるけど。
最後のニセコアンヌプリでの事故事例報告は、発表者も話す通り、さっぱり分からなかった。北海道でやる講演会で、事故が起こったのも北海道だから、仕方なく発表せざるを得なかったような、何をどう理解すればいいのか分からない内容。発表者の声も小さく、貧乏くじを引かされたように見えて、気の毒に感じてしまった。
発表が終わってからだったか、北大山スキー部の部員らしき男性から一つだけ質問があった。HUSVもボーダーが増えたとかで、ボードで怪我人の搬送用のソリを作る方法を聞いていた。雪崩と直接関係はないように感じたけど、質問がないので気を遣ってくれたんだろう。時間オーバーしてたし。
去年の講演会も、それはそれで煮え切らない内容だった。バックカントリーツアーのあり方が問われていた事故のはずなのに、各所の対応が福島原発事故のようだった。個人レベルでは事故を起したガイドの菊地さんは、去年、日本雪崩ネットワークのLevel 1を受講したそうだけど、結局、ガイド会社とガイドの関係もよく分からない。かといって、さすがに、今回、事例報告をしていたサポートガイドの佐々木さんに、みんなの前で質問する勇気はない。普通に宮下さんも会場にいたけど、北海道の山岳ガイドのドンみたいで2ちゃんで叩かれるより恐い。会場で大西さんも見かけたのでビーコンのことを聞こうかとも思ったけど、他の人たちと話していたし、なんとなく声をかけづらくてそのまま帰った。
雪崩だけではないけど11/23の「冬山遭難を防ぐためのシンポジウム」、11/2の「アバランチナイト」がまだ残ってる。知識や情報を整理して今シーズンの雪崩リスクマネジメントに活かさなくては。
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コメント
なるほど
そういう内容だったのですね・・・
先ずは観測の観測でもしてみます
http://www.powderportal.net/
投稿: ムラマサ | 2011年11月21日 (月) 23時45分
>ムラマサさん
H本のフィルターを通った情報なので
内容の正確さは保証できませんし
自分なりの勝手な解釈で書いてます。
「観測の観測」は大事ですよね。
よく山行の1週間前からの天気をチェックするように言われます。
まあ、観測しようと思ってするというよりは
いいコンディションの場所を見つけるために
行きそうな場所の天気は必然的に毎日チェックするようになります。
ビョーキみたいなもんです。
ただ、やっぱり情報は観測点がある場所に限られてしまうので
現地の情報を得るためにはネットを活用します。
これまで山屋さんや滑り系のブログをRSSリーダーで逐一チェックして
現地のコンディションを少しでも詳しく把握しようとして来ました。
やりすぎるとキモがられるので要注意ですが。
今後はtwitterやmixi、facebookなども活用するつもりです。
投稿: H本 | 2011年11月22日 (火) 10時38分