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12/2/18 羊蹄山 3

白馬からトミーさんを迎えたオフ会の朝、札幌は寒かった。

4時に起きて急いで支度して、車に荷物を詰め込む。4:45に自宅を出発するとき、ガソリンが足りないことに気づいて慌てて途中のスタンドで給油を済ませた。それでも、トミーさんが泊まってるホテルが近くだったので、それほど遅れずにすんだ。

ホテルの玄関にはボードのケースと荷物が1セット置いてある。まさか、こんなに早い時間にトミーさん以外に滑りに出かける人はいないだろう。車を停めて玄関へ向かうと、中にはオレンジのウェアを着た人が一人。きっとトミーさんだろう。ぶっこさんを円山公園バスターミナルへ迎えに行ったときの緊張が舞い戻って来た。怖い。

でも、心配とは裏腹にトミーさんの挨拶は紳士的で、むしろビビってた自分の方が怪しかった。とはいえ、車に乗り込むなり、ナビのディスプレーで再生していたミクパの映像に早速反応を示したので、トミーさんだと確信。まちがいない。

待ち合わせの道路情報館には5時半にちゃんと間に合う。まさしさんがもう着いていた。ただ、simpletaxiさんやゆずぽんさんにはまだ一度も会ったことがない。電話をかけてもらったり、何だかごちゃごちゃしているうちに、なんとか参加メンバーがそろったので、情報館の中へ入って一応自己紹介。というのも、この日の札幌はしばれてる。車の温度計はマイナス15度を示していた。

車が多すぎると大変なので、適当に相乗りして4台で墓地へ向かった。途中、定山渓(ていざんけい)の温度計の表示がマイナス20度なのを見て、トミーさんと二人で悲鳴を上げる。これは雪ミクさんを描くどころじゃないかもしれない。

車内では内地の痛板事情やらトミーさんのことやらを根掘り葉掘り聞き出して、北海道の情報の遅れを挽回しようと努めた。でも、ベースとなる情報量が決定的にちがい、説明のための説明をお願いすることが少なくなく、質問攻めになってしまった。

喜茂別のセイコーマートで朝食と行動食を調達して、みんなで墓地へ。停まっている車は1台だけ。ここに2台デポして、滑る準備をしてからキャンプ場へ移動した。すると、キャンプ場の駐車場には車がずらり。真狩コースは盛況のようだ。

朝日に薄ら朱く染まる羊蹄山

ここでようやくこの日一緒に登るフルメンバー9人がそろう。アルペン1人、テレマーク4人、ジルブレッタ1人、ボード3人のうち1人はスプリット。すごいバリエーションだ。しかも、9人のうち4人が痛板ということで、結構がんばった。

ただし、BC初めてのトミーさんはもちろん、まさしさんはBCが初めてではないものの登り慣れてはいない。Asaさんとふーぽんさん以外は一緒にBCで滑ったことがないので全くの未知数。何ともDQNガイドっぷりを発揮してしまった。何かあったら叩かれまくりの痛いツアーだ。山コン状態。今さらながら、登山口で計画のあまりの無謀さに自分でも驚く。

とりあえず、痛板にしてから登る前には必ず自分の板を晒すのが習慣になっていたので、よく見えるように立てかけておくと、気づいたら痛板が並んでいた。なぜか並べたくなる痛板。並べずにはいられない痛板。

3痛板

痛テレマーク第2号
うれしいことに、ゆずぽんさんはヘルメットだけじゃなく板も痛くして来てくれた。

ただ、残念ながら、期待していたそに子板は見れなかった。忙しくて準備できなかったそうだ。別に巨乳が見たかったわけじゃないけど、トミーさんの本気痛板を見てみたかったし、みんなに見てもらいたかったので残念だった。それに、ザックに担がれた痛板を見せつけられながら登るのがどんなものか経験してみたかった。スキーやスプリットなら嫁にハァハァするのは自分だけど、ボードの場合は後の人がハァハァすることになるはず。みんなの反応が見てみたかった。

何の集まり?

この日は先行パーティーがいたのでラッセルの心配もない。そもそも、前日の登りトレースがほとんどそのまま残っているようで、むしろデルタの方が心配だった。ノートラックに雪ミクさんを描くことしか頭になかったので、場合によっては計画に大きな支障が出る。

スタートしてすぐに分かった問題は、トミーさんに貸したシューにはクライミングサポートが付いていないということ。どうやら登りが相当大変なようだ。自分でシューを使ったこともなく、又貸しだけに気づかなかった。そのせいか、トミーさんは滝のような汗を流し続ける。おかげでトミーさんが持って来ていた水はすぐになくなり、要らないと思って車に置いて来たスポーツドリンクを当てにしていたトミーさんは驚愕の表情。これは申し訳ない、というか普通にやばい。幸い、まさしさんの水を提供してもらうことで難は避けられたような気がしたけれど。

とはいえ、山でこんなに汗を流している姿を見たことがない。もともと汗かきだとは聞いていたけど、基本的に冬山では汗をかかないように行動する。やっぱり道具が悪いのか、ペースが速いのか、とにかく何かまずいような気はしながらも、ゆっくりマイペースで登っているまさしさんにペースを合わせて休憩しながら登り続けた。

天気は概ね良好。陽射しもあり、風はほとんどなく、思ったほど寒くもなかった。これならデルタに雪ミクさんを描く作業もそれほど苦にならないかもしれない。逆に、悪天候を言訳に計画を中止できなく成ったことで、何とも複雑な気持ちだった。もう開き直るしかない。ハイクアップの辛さに悲鳴を上げるまさしさんを気遣いつつも、一つ尾根を挟んだデルタの隣を先行トレースを借りて登って行く。

そして、尾根へ出たとき、デルタの斜面が見えた。そこには、大きくジグを切った登りトレースが深く刻まれ、さらに数本の下りトレースが、その登りトレースをまたぎながら上から下へと続いていた。その瞬間一気にテンションが下がる。雪ミクさんも滑りもどうやらダメっぽい。ただ、それと同時に、計画を断念する口実ができたという安堵感に包まれた。そこでAsaさんに計画中止を伝えると、逆に本気だったことを苦笑いされてしまった。もしかして、本気だったのは自分だけ!?期待していたみなさん、ごめんなさい。計画は場所と時期をずらしていつか。

デルタの登りトレース

本気かどうかはこの際ともかく、体力的に厳しそうなメンバーがいるなかでは、さすがにハイクを繰り返して絵を描くなんてのはどう考えても無理だ。幸い天気はいいので、雪が残っていて比較的いい斜面を見つけて滑るのが最善策だろう。実際、みんな滑る気満々だ。

デルタから見たグスベリ

登っていると、何やら後から音楽が聞こえて来るような気がした。ラジオを付けた山屋さんが登って来たのかと思ったら、トミーさんがケータイか何かでアニソン?を大音量で流していた。単独のとき、というかミクと二人だけでハイクするときにミクの歌をかけようとは考えていたけど、まさかさらっとやってのけてしまうとは!北海道のバックカントリーに新しい風が吹いたような気がした。

そのトミーさんのウェア。北海道へ来る前の打ち合せで、ウェアのパンツにベンチレーションがないなら、自分が持っているお古のウェアを貸すつもりだったけど、ウェアは問題ないと聞いていた。休憩のときにちらっとトミーさんのパンツを確認すると、確かに、ベンチレーションらしき穴が開いている。でも、その穴ってちゃんと閉じるの?どうやら、その穴はベンチレーションじゃなくて本当に破けた穴らしい。普段、そこから雪が入って濡れるとか。そりゃ、当たり前だよ!天気が良かったからまだしも、吹雪いていたらヤバかったかもしれない。ドキドキしてしまった。

使わせてもらった登りトレースは大胆にデルタを横切っている。今さら自分でトレースを増やしても意味がないので、仕方なくデルタへ侵入して登ったけど、どう考えてもこのトレースはダメだろう。斜度が急ではないとはいえ、広くて比較的オープンな沢状地形を思いっきりトラバースする。仮に一番乗りでドロップしようとしても、場合によっては後続がそのトレースを辿って来たら、滑るときに邪魔にって滑り始められない。万一、雪崩を誘発して巻き込んだらシャレにならない。山屋さんじゃないが、基本的には尾根を登るのが定石で、事情があって尾根を避ける場合もわざわざ真ん中を横切るべきではないと思う。貸し切りの斜面ならまだしも、複数のパーティーが入ることが分かっている斜面なら、それくらいのことは予想して欲しい。

まあ、デルタに雪ミクを描くなんてバカなことを言っている人間が、他人の登りトレースをとやかく言うのもなんだけど、実のところ、他のパーティーが入って来るのが明らかなときは中止するつもりだった。早く出発して、後続が来る前にさっさと描いてしまおうと思ってたから。

幸か不幸か、いろいろ予定通りには進まなくて、デルタも1,300m弱で登るのは止めてドロップすることにした。滑る準備をしていると、先行パーティーが雪崩のようにほぼ一斉に滑り降りて来る。こんなのを見ると、また余計にイライラして来る。こんな奴らが埋まったって絶対に助けてやらないと思った。うちのエリオは受信できません。

痛ビーコンで受信中

そんなわけで、デルタの東側は結構ギタギタになっていたので、尾根の方の西側を滑ることにした。でも、その前にまず記念撮影。ピークでもないけど、1,000mもハイクアップして痛板を並べた姿はこれまであまりないだろう。ちょうど下界も見えているし、記念すべき1枚になったことはまちがいない。

痛板オフ会(オフピステミーティング)記念撮影
(ぶーぽんさんからもらった写真)

ビデオで撮影したかったので、ファーストを、といっても、すでに他のパーティーが滑ってギタギタだけど、奥のノートラックへ泣く泣くトラバースしてから適当なところまで滑り降りてカメラを構えた。雪は重めだけどまずまず。撮影する人を優先して滑る。ファインダーを除いていても、この日ほど面白い日はなかったと思う。なんせ、メンバーがどんな滑りをするかさっぱり予想が付かない。いつもなら初めから知っているかある程度見当付くけど、大半がこの日初めて会った人や、BCでは初めて一緒の人たち。フレームに収めることを考えるだけでいつもより緊張した。


個人的には、ゆずぽんさんの滑りが一番印象的だった。同じテレマークだということもあるけど、自分とは全くちがう滑り。「ダンシング・テレ」と思わず名付けてしまいたくなるような軽やかな滑り。ウェアが縞々だけに、シマウマが駆けているように見えた。

初BCのトミーさんの滑りは、Asaさんのぐいーんなターンを見ていたので、スケボーチックなトミーさんの滑りはちょっと新鮮。リズムが読めず、どこでターンするか予想が付かない。ある意味カメラマン泣かせだけど、「どうするんだ?どうするんだ?」とファインダーを覗きながら楽しんだ。滑りも楽しそうに見えたし。

でも、初めてとか慣れてないとか言いながらも、みんなちゃんと滑っていた。それに引き換え、自分の滑りはひどかった。テレマークでどれくらいスピード出せるか試してみたら、トレースや小さな起伏で煽られて、トッパーになった板が、その太さのせいか「ダメッ!」っていう中島愛の声が聞こえて来るくらいに浮き上がる。リカバリーしようとしてたけど、気づくともうどうにもならなくて転んでしまった。とりあえず、怪我しないように流れに逆らわず受け身。すると、転がっている瞬間にポールをロストしたことに気づく。身体の回転が止まって慌てて振り返っても、ポールは落ちてない。急いで両腕でプロービングを開始。3mほど登るとポールの輪っかの先が辛うじて雪面に出ているのを発見。助かった。

デルタをボトムまで滑り降りるとみんな満足。最後の1本はテラスの沢を滑って来たこうじさんたちとも合流。登り返す2人を残して、7人で墓地の車を目指した。あとはいつも通りで楽に下山。

結果的に、計画していた痛山、デルタに雪ミクさんを描く計画は実行できなかったけれど、オフ会当初の目的であったトミーさんに初めてのバックカントリーを北海道で楽しんでもらうことは達成できたのではないかと思う。みんなの協力で痛板がBCで4枚も集まったし、これから痛板を作ろうという人たちも集まった。痛板1年目、テレマーク2年目の自分には上出来だろう。次回はオール痛板でツアーに臨みたい。

ただし、無事にみんな下山できたとはいえ、かなり無茶なツアーだったのは否めない。自分の滑り最優先なDQNガイドっぷりを発揮して、ツッコミどころ満載だった。無事に帰って来れて本当にラッキーだった。このときばかりは心底ホッとした。

そんなわけで、尻別岳、ばんけいに続き、羊蹄山では2度目の痛板セッションが実現した。墓地を聖地の一つに勝手に加えたいと思う。北海道の痛板の聖地として。

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