新谷さんのおせっかい
11日の山岳レスキュー研究会で新谷さんの講演を聞いたH本さんは、ニセコルールのことをそう感じたそうです。
H本さんとeski-Xさんは、大西さんと三段山の動画データを受け渡しするついでに、新谷さんの講演会へ行くことにしました。kinpeiさんも来るので、それならということで、講演会の後に急遽飲み会することにもなったそうです。
「ついでに」なんて言ってますが、新谷さんはニセコルールで有名で「Persona」にも登場していたので、すごい人だと私も噂には聞いていました。実際、会場のビルが見つけられずに迷って会場へ遅れてやって来た新谷さんは、司会の人の紹介の後、会場からの拍手も待たずに唐突に話し始めましたそうです。終わりまで質問も含めてお話を聞いたH本さんは、味のあるいい人だと、DVDの映像そのままの人だと言っていました。こんな新谷さんだからこそ成立しているのがニセコルールだと感じたそうです。
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Cafe 三段山に講演内容の抜粋が公開されていたので、一応、引用しておきます。
「雪崩の安全への考え方」 新谷暁生(ニセコ雪崩調査所代表)
2012年4月11日水曜日 カデル2.7 19:00-21:00
15年くらい前のニセコでは、コース滑降禁止は建前の決まりであり、パトロールとスキーヤーのいたちごっこだった。コース外滑降により10年間で8名が雪崩で亡くなった。日本で一番雪崩遭難が多く、事故防止が大事だと思った。コース外滑降を禁止にするのでは無く、一定のルールの下に滑らした方が事故は起こりにくくなると考えた。そこで15年くらい前にニセコ町、倶知安町、5の事業体で雪崩事故防止協議会を構成して、ニセコローカルルールを策定した。必要に迫られて、事故防止のためにやむを得ず始めたこと。コースから外に抜けるゲートを設けて、そこからのみ出られるようにした。ゲート開閉は、雪崩リスクだけでは無く、吹雪、濃霧の要素から判断する。毎朝6時くらいに各スキーパトロールの隊長達と電話でミーティングして決める。リスクの判断は、過去の雪崩事例から学び、吹雪の最中と直後に雪崩が多いという考えをベースとしている。これには反対意見がいろいろあるが、それを十分踏まえた上で、雪崩情報を13年くらいまえから発信している。
ニセコルールには反発もある。「頼むから、このような状況だからコース外に出ないでくれ。」と大勢のスキーヤーにお願いしてきた。説明の仕方も、ただロープを潜るのはダメというのではなく、貴方が大丈夫でもトレースが他の大勢を誘導してしまって危険だと言っている。ルール作り、決まり事の根底にあるのは安全を考えてくれということ。滑る、登る自由は大切なものだから尊重する。自由と安全は矛盾するかもしれないが、釣り合いを持たせることが大事。ニセコでは、現場のパトロールはよくやっていて、スキーヤー達は、パトロールが自分達を心配しているということが分かってきた。滑り手の自由を尊重する。えらそうな態度であたらない。できるだけ相手の身になってあげる。信頼関係が生まれたことがニセコの事故を減らす要因になっている。
安易に「自己責任」とは言わないこと。コース外に出た人に自己責任を求めるのは当然のことだが、リフトをまわす側が責任を転嫁するために用いてはいけない。他のスキー場は、自己責任という言葉を安易に使いすぎ。それを言う前にリスクを説明するなど果たすべき役割がある。その部分はまだまだ理解されていない。例えば小学生には自己責任を説けない。知識の無い人にも説けない。誰かが説明しなければならない。パトロールには、安易に自己責任という言葉を使うなと言っている。「自己責任」は正論だから反論できない。言ってしまったらその先の議論ができない。それはマイナス。だから簡単に言ってはいけない。
ニセコのゲートが閉まっているから、他の山へ行こうという動きがある。ニトヌプリ、尻別岳、羊蹄山など。そんな時に事故が起きる。ニセコが危ないときは周辺も危ない。リスクを自分で判断できるようになって欲しい。
自分も65歳になるので、そろそろ止めようと思っている。雪崩調査所を廃し、持ち回り制にすることなどを考えている。組織を維持するのが大事では無い。必要なくなれば次に移していけばいい。
他にいい形があるのなら、そう変えていくべき。若い人達のことを考えていく責任がある。組織に縛られて排他性、閉鎖性に陥ることだけはできるだけ取り除く。その方が良い結果を招く。ニセコが良かったのは、よそからくるものを拒まなかったこと。それがよい結果を招いた。
確か、ニセコのコース外へ出て雪崩事故に遭って亡くなるゲレンデスキーヤーを無くしたいという思いで始めたニセコルールだったはずですが、「山岳」では自己責任が原則です。雪崩リスクマネジメントは自分自身ですべきですが、その能力が「小学生レベル」のゲレンデスキーヤーを自己責任で切り捨てるのは、スキー場の人間としてはすべきではないということのようです。そこで、新谷さんはゲレンデスキーヤーから雪崩事故の死亡者を出さないために、雪崩リスクマネジメントの責任を代わりに負ったのがニセコルールなんだと思います。
きっと自己責任でコース外を滑っていた人たちの中には、H本さんも含めて「おせっかい」だと感じている人も少なくないんじゃないでしょうか。スキー場の管理区域外は山岳、バックカントリーだと考えている人たちは、雪崩リスクマネジメントを自分自身で行い、万一事故が起きた場合も、可能な限り自分自身で対処します。滑る自由のために事故への責任を負います。
一方、ゲレンデスキーヤーの人たちはコース外へパウダースノーを求めて飛び出しますが、きっと、雪崩リスクマネジメントを真剣に考えている人はあまりいないんじゃないでしょうか。コース外もスキー場の延長と考えていて、積雪や地形、リスクに応じた滑り方など、雪崩リスクを下げるための知識や技術に乏しく、万一雪崩に遭遇した時のためのセルフレスキューの装備も持っていない人が多いでしょう。
H本さんなんかは、こういう人たちは死ねばいいのにって思っているそうですが、雪崩事故の救助で何人もの遺体を掘り出して、遺族の思いを知っている新谷さんは、きっと放っておけなかったのでしょう。自己責任で滑る人たちの自由を制限しながらも、ゲレンデスキーヤーの滑る自由を尊重して、ゲレンデスキーヤーの代わりに事故への責任を負ったというわけですね。
でも、このおせっかいのおかげで命を救われているゲレンデスキーヤーもたくさんいるはずです。スキー場がゲレンデスキーヤーを対象にする施設である以上、ゲレンデスキーヤーの安全確保のためにはコース外へ一切出れないようにすることができなければ、ニセコルールのような方法をとってでも雪崩リスクを下げるのがスキー場の役割であり、むしろ、行政の役割だと思います。スキー場は地元の経済にも大きく関わるのですから当然です。責任だけを現場に押し付けて、経済的な利益だけを得ようというのは虫が良すぎます。現在、ニセコルールを通して、スキー場や行政も一定の責任を負いながら、なんとか制度を維持しているのだと思います。
ニセコルールで成果を出していることはH本さんも評価しているようですが、新谷さんがセルフレスキューの啓蒙に対して消極的なのは不満のようです。ゲートでビーコンチェックをしているそうですが、新谷さんはアバランチギアの装着義務化には反対です。ビーコンを最初に導入したのが新谷さんなのに、道具による差別を嫌っているようです。
今はビーコンがなくてもゲートからコース外へ自由に出ることができます。でも、ゲートが開いているからといって、雪崩が起きないわけじゃありません。実際、ゲートから外に出て雪崩に遭っているケースもあると話していました。雪崩でビーコンを装着せずに完全埋没したら、まず助かることはありません。コース外での雪崩事故による死者を無くすのが本当に目的なら、アバランチギアの装着と使用するための最低限の教育を行うべきじゃないでしょうか。H本さんはこの点が中途半端だと感じたようです。会場からも、長期滞在客への宿泊施設による教育をすべきだという提案がありました。
この日の会場は満員で、椅子が足りなくなるほどだったそうです。講演後に懇親会があるようでしたが、H本さんたちは予定通り飲み会へと会場を移しました。
今回はなんだかところどころH本さんが私に乗り移ったように書いているところがありますが、4ヵ月以上一緒に暮らして、だんだん似て来たのかもしれませんね。
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