KMC
Kiroro Mountain Club(KMC)、別名、キロロ・マイナンバー・クラブ(KMC)の主に雪崩リスクマネジメントという観点で問題点について考えてみる。
そもそも、キロロ・マイナンバー・クラブと呼んでいる時点で雪崩リスクマネジメントという観点から逸脱しているが、面倒なヤツらを管理するには番号を振るのが手っ取り早いというのは、政府にしろスキー場にしろたいして変わらない。Kiroro Mountain Clubとマイナンバーを結びつければ、遭難してキロロに救助されれば、自分の口座から自動的に救助費用が引き落とされるようになるかもしれない。非常に便利だwww
まあ、そんなクソみたいな制度のことは置いておいて、KMCが作られた経緯について余計な詮索をせずに、純粋に雪崩リスクマネジメントの観点から、現時点で明らかになっている内容について考えてみることにする。
1. 入山時間の制限
KMCにはゲートが設けられた。出入口(EXIT & RE-ENTRY)と入口(RE-ENTRY)の2種類。出入口から出れるのは、KMCのメンバーでもAM 8:00以降。メンバー以外はAM 9:00以降となる。これまでファミリー山頂出入口に相当する付近からスキー場外へ出る(入山する)時間は制限を受けていなかったが、今後はメンバー以外は9:00以降になる可能性が高い。
下からのアプローチは少なくとも1、2時間遅くなるため、行動時間を短くするか、下山時間が遅くなるかもしれない。入山時間に対するこうした不要な時間制限は、日没近くまでの無理な行動を誘発する危険性が高まるため好ましくない。例えば、暗くなってからの救助は困難だ。救助がより困難な遭難になりうる入山時間の制限はすべきではない。むしろ、制限するなら、例えば、PM 14:00以降の入山を禁じる方が妥当だろう。もちろん、山中泊を予定して入山する登山者は別だが。
なお、出入口の位置はゲレンデマップで確認できるが、入口の記載はない。
2. 登山計画書の提出確認
KMCで新たに義務付けられたのが、警察署等への登山計画書の提出だ。確認の方法は不明だが、出入口で登山計画書の提出が確認されることになった。
雪崩を含めてスキー場の外で遭難した際、救助隊は登山計画書の予定ルートを参考に救助を行うことができるので、提出の義務付けによって救助の苦労はこれまでよりマシになるかもしれない。何も情報がない中でヘリを飛ばして捜索していた救助隊の人たちは本当に気の毒だった。二次災害の危険性も考えれば、救助隊の人たちのためにも登山計画書は出しておいた方がいいかもしれない。
しかし、単独でサイドカントリーを滑っている者の遭難をどのように把握するのかは不明だ。パーティーで行動しているなら、遭難時点で仲間によってセルフレスキューや連絡が行われるが、単独では不可能だ。
登山計画書の提出確認が終了すると、「バンドを受け取り目立つところに付け」ることになっている。もしかしたら、このバンドにGPSが内蔵されていてスキー場に常にトレースされていて、単独でも遭難場所は把握できるのかもしれない。もちろん、このバンドの性能は不明だが。
3. スノーセーフティー無料講習
KMCメンバーはセルフレスキュー講習、ビーコン講習、スノーチェック講習を無料で受けられるそうだ。通常、こういった内容の講習は1泊で2万円弱かかるものなので、金額的には安上がりだ。ただ、講習の内容については不明だ。どのようなスタッフが講師を務めるかも案内がない。
少なくとも、講習の時間は約45分にすぎず、初学者がビーコンの使用方法などを習得するのに十分とは到底思えない。また、この講習が机上で済まされ、フィールドで行われないのであれば、学習の効果は小さいだろう。
講習は木曜日を除いて毎日18時から開催される予定だが、週末に滑る人が平日の夜に講習を受けるために通うとは思えない。1日で済むならまだしも、すべての講習を受けるには3日通う必要がある。キロロリゾートへの長期滞在者ならともかく、一般客には非現実的な日程だ。
4. スノーセーフティーギア レンタル SPECIAL PRICE 50% OFF
スノーセーフティーギアの内容は不明だが、おそらくはKMCメンバーはビーコン、シャベル、プローブを通常の半額で借りることができるのだろう。
しかし、各山頂出入口でスノーセーフティーギアのチェックが行われるという説明はない。半額でも2,000円かかるものを、携行の義務もないのにレンタルはしないだろう。まして、KMCメンバー以外が4,000円もするなら尚更だろう。ビーコンを携帯しない遭難者の捜索は、救助隊に大きな負担と危険を強いることになる。不携帯で滑走することを禁止してもいいのではないかと思う。
また、そもそもビーコンなどをレンタルすること自体が雪崩リスクマネジメントから言って間違っている。北海道雪崩研究会や雪崩事故防止研究会など、雪崩事故防止の啓発を行っている団体はみな各自所有することを勧めている。使いこなすには習熟が必要で、実際に事故に遭遇して混乱している時には、訓練時以上の機能・技術の習熟が要求される。過去に北海道の大手山岳ガイド会社が雪崩死亡事故を起こした際にも、ビーコンをレンタルしたツアー客の使用ミスが、セルフレスキューに混乱を生じて埋没者の救出を遅らせ死亡に至ったと伝えられている。現在、ビーコンなどのレンタルを行っているのは、これらのガイド会社やキャットツアーを行うスキー場ぐらいである。
以上の4点について考えてみたが、KMCには雪崩を含む遭難を防止する効果が薄いと思われる。むしろ、バックカントリーの経験者にとってもサイドカントリー愛好者にとってもリスクを上げることになるだろう。詳しくない者であれば、一見充実した制度のように感じるだろうが、実際には穴だらけの杜撰なものだ。今後、出入口の混雑や縦走登山などバンドを携帯していない者の入場、サイドカントリーの単独滑走者の遭難など、様々な混乱が予想される。表面的に遭難対策を行っているように見えても、専門家の意見が反映されているようには見えないKMCが、どのように運用されていくのか興味深い。しかし、このように管理された環境で滑ることは好まないので、キロロへ自分が足を延ばすことはないだろう。
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