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アリュート・ヘブン

10年以上も本棚で埃をかぶっていた新谷さんの本を今月ようやく読み終えた。

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【新品】【本】アリュート・ヘブン 新谷 暁生 著
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この本を知ったのは確かFall Line 2005で紹介されていたのがきっかけだ。ちょうどバックカントリーで滑り始めた頃、今ほど情報が多くない中、なんとなく表紙から発せられる空気と「アリュート」という語感に惹きつけられて、中身をよく確認もせずに買った覚えがある。カヤックのことも知らず、新谷さんがどんな人かも知らずにだ。ただ、そんな買い方をしたせいか、本棚に飾るだけで、いつのまにか存在すら忘れてしまっていた。

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BCスキーをしていると必然的に雪崩のことを学ぶようになり、すると自然と新谷さんの名前を耳にすることになった。ニセコローカルルール(今のニセコルール)を作って雪崩事故防止に取り組んでいる人だと知ったけれども、この本の存在すら忘れていて、もちろん著者だと気づくこともなかった。

おそらく新谷さんの講演を聞いたときに本のことを思い出したような気がする。このとき新谷さんからいい印象を受けていたらちがったのかもしれないけど、どうも新谷さん独自の感覚的な雪崩理論がしっくり来なかったので、本棚から取り出して読むことにはならなかった。

ところが、ここ数年、三段山クラブへ入ってからは特にシーカヤックの話題を耳にすることが増えた。パパからのSandan Kayaksへの勧誘も、購入費用と保管スペースがないことを理由に断っていたけど、動画を何度か見ているうちに興味も湧いて、表紙の写真を思い出した。

いつものように前置きがずいぶん長くなってしまったけれど、こうして実に購入から12年も経ってようやくページをめくった。

読み進んでいくにつれて、新谷さんへの大きな勘違いに気づいた。新谷さんは少なくとも自分の目から見て、かなりの登山家であり冒険家であった。Personaに出演していた新谷さんはずいぶん謙遜して話していただけで、厳冬期の道内から海外の山々までの登攀、パタゴニアやこの本のタイトルにもなっているアリューシャンへのシーカヤックと、どうやらただの宿のおっさんではなかったということに今さらながら気づいたw

とはいえ、文章は講演の印象そのまま。淡々と話しているようで、話の流れがつかめないこともたびたびだ。唐突に別の話へ飛んでしまって置いて行かれたりもする。その一方で、知性を感じさせる言葉づかいで、文章表現もスキー雑誌にたびたび見かけられる厨二病っぽいものとは明らかに異なる。しかも、突然、体制に牙を剥くかのような厳しい批判が始まったりと、もちろん、その批判の中身には同意できないことも少なくないけれど、アウトドア関連書籍でありがちな毒にも薬にもならないようなエッセイとはまったくちがって、その都度考えせられる。

寝る前に読むことが多かったので、中盤こそ途中で寝ていることもあったけれど、最後の「あとがきにかえて」というあとがきまで、いつ不意に議論をふっかけられるか分からないような緊張感を持ったまま読み終えた。久しぶりの読書でもあったので、余計に読み終えた充実感がある。

この本が出版されたのはもう12年前であり情勢はかなり変わっている部分もある。知床はすでに世界遺産となり、ニセコは外国人で溢れてニセコルールが運用されている。海外のことは言うまでもないが、シーカヤックに関わる海のことはほとんど知らない。ただ一つ自分にも関わりが深い雪崩やスキー場のことについては、少なくとも4年前の講演では本質的な変化は感じられなかったし、ニセコから足が遠のいた今では、ニセコで大きな雪崩死亡事故でも起きなければ、ニセコルールの問題点にも気づかないだろう。雪崩事故防止がボランティアを中心とした献身的な取り組みに頼らずに進められるようになるといいのだけれど。

今回、アリュート・ヘブンを読んでみて、今さらながら新谷さんの他の著書にも目を通してみたくなった。それにしても、新谷さんはどういった思いで「ヘブン」という言葉を選んだのだろうか。それだけに「つづき」も気になる。

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コメント

バトル・オブ・アリューシャン、73回目の知床、うちにありますが、読みますか?
73回目の知床は、ちょうど知床エクスペディションに参加して最終校正中だったなぁ。本の話を聞きながら、知床半島をカヤックで5日間かけて回ったのはいい思い出。

投稿: さるさん | 2016年10月25日 (火) 21時56分

>さるさん

ぜひ貸して欲しいです!
知床エクスペディションに参加してたとは驚きました。
新田隆三の雪崩の世界からを読み終えたら、つづきを読んでみたいですねー

投稿: H本 | 2016年10月25日 (火) 22時02分

あ、知床EXP参加時に校正中だったのは「北の山河抄」でしたw
ということで、持って行きますね~。

投稿: さるさん | 2016年10月26日 (水) 11時58分

>さるさん

新谷さんずいぶん書いてたんですね〜
おかげさまで充実した読書の秋になりそうです。

投稿: H本 | 2016年10月28日 (金) 16時19分

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