ピンテールのスノーボードとスキー
ピンテールの良さは雪に刺すのが簡単なだけではない。
以前はスノーボードの雑誌を読む機会はほとんどなかったし、ましてVector Glideのスノーボードに触れた記事を雑誌で見かけることはなかった。手元に唯一あるのは、10年前の「Fall Line 2007」における秋庭さんへのインタビューの中で、スノーボードについての質問に答えているものだ。ちょっとその部分を引用してみる。
ー2シーズン目からスノーボードも作り始めたのはなぜですか?
「スタートは同時でした。フリースキーを始めたときに、一緒に滑りに行くのはスキーヤーだけではありませんでしたし、同じフィールドで楽しみを分かち合えることに強い感銘を受けたのが理由です。スキーとスノーボードは同じではないんですが、板が受ける浮力とか動きとか共通する部分もあるし、違う部分もある。そういった意味で、開発にはスキー以上に時間をかけた結果、1シーズン遅れてのリリースになったというわけです」
ーピンテールが非常に個性的な「ジニアス」の形状は何を求めているのですか?
「パウダーを滑るためのライディングはセットバックしたポジションが多いわけですが、ピンテールにすることでナチュラルなポジションでもセットバックと同じような効果を生み、同時に浮力を得て速いスピードで乗れる性能を追求したんです。またピンテールにすることでスウィングウェイトが軽くなり、たとえばツリーランの取り回しも向上します」
ー整地ではどうなんですか?
「確かにディレクショナルのボードに乗り慣れている人には、最初は違和感あるかもしれないですね」
ースノーボードの形状はひとつではないという事実は、すでにゲンテンスティックで証明されてますしね。
「板の良し悪しの違いではなくて、乗り味の違い。それが肝心なんだと思います。答えは決してひとつではない。フィールドは様々で、それぞれの遊び方のスタイルがあって、楽しみ方が無限に広がっているのがスキーやスノーボードだと思うので……。そういった中で、自分のライディングやモノ作りのスタイルを追求していきたいと思っています」
当時、おそらくヴェリエストやマークⅢはリリースされてなかったのだろう。インタビューはジニアスへのものだ。ちょうど今自分が乗っているのも復刻したジニアスなので、非常に興味深い。
質問への回答を簡単にまとめると、
- スキーとスノーボードには、板が受ける浮力とか動きとか共通する部分もあるので、同じフィールドで楽しみを分かち合える。
- ジニアスはピンテールによって、セットバックしなくてもナチュラルなポジションで浮力を得て速いスピードでパウダーを滑ることができ、また、スウィングウェイトが軽くツリーランなどでの取り回しが向上している。
- しかし、整地においては最初、ディレクショナルなボードとの違和感があるかもしれないが、肝心なのは板の良し悪しではなく乗り味の違いであり、様々なフィールドごとの遊び方のスタイルがあって、楽しみ方も様々。
ついでに、Vector Glideの今年17-18シーズンのカタログにおける紹介文も引用してみる。
厳密に考えられたアウトラインは、パウダーにおいてもよりナチュラルなポジションで浮力を得るとともに、テーパードされたビンテールとロッカーは類を見ないスウィングウェイトの軽さを実現。初代モデルから細かな変更を経て再び誕生。
文章から「スピード」が消えてはいるものの、ナチュラルなポジションとスウィングウェイトについては、秋庭さんが10年前に語っていた通りだ。VG Snowboardから復刻されたジニアスは、以前のモデルより張りが強くチューニングし直されていると聞くので、スピードは衰えているはずがない。
10-11シーズンにはピンテールを採用したスキーのジニアスも登場したが、その17-18シーズンの紹介文は次の通りだ。
ヴェクターグライド最速のパウダーモデル。ワイドシェイプロッカー形状が絶大な浮力を、ピンテールがターン後半の走りと抜群の操作性を生み出す。
「最速」、「ターン後半の走りと抜群の操作性」は、スノーボードのジニアスに通じるものだ。スキーとスノーボードともに同じピンテールで特徴付けられるジニアスは、スキーとスノーボードがもともと持っていた共通性をより強めたものだと捉えることができる。裏を返すと、ジニアスというスノーボードは、やはりスキーに非常に近いスノーボードなのではないかと。
このことは、VUCへ参加していたborisさんと話して気づいた。自分と同じくアルペン、テレ、スノボの3種をこなすborisさんだが、スキーはVector GlideでもスノボはGentemstickだ。以前はVector Glideのボードに乗っていたそうだが、スノボまでスキーのように滑ってはスノボの意味がないと、Gentemstickに宗旨替えしたと聞いた。確かに一理あるけれど、逆に、それを聞いたおかげで自分はスノボでどんな滑りがしたいかに気づいた気がした。
初めはスノボをするからにはスノーサーフをしたいと思っていたし、以前から漠然とテレマークスキーでもスノーサーフをしたいと思っていた。ところが、ジニアスに乗り続けるうちにその思いはいつの間にか変化して、ジニアスの滑り、ピンテールの滑りが好きになり、スキー、スノボに関わらず、その滑りを探求してみたい思うようになっていた。そして、だんだんとGentemstickへの憧れが薄れて来たのも無理はない。今自分がやっていることは、ピンテールの滑りをスキーで表現するか、スノボで表現するかの違いだった。
さらに、borisさんがVector Glideのスノーボードとアキュブレイドとの相性はいいと話していたことにも納得がいった。最近はスノーサーフが注目されると同時に、「足裏感覚」が求められるようになって来た。ゲンテン乗りにもかつては多かったらしいステップインも、今はストラップバインへ戻すボーダーが少なくない。スプリットボードのシステムがストラップバインで進化していることも大きく関係しているが、乗り味でスプリットを離れている者も多いはずだ。
実際、Tripper ABはゴツくてアルペンスキーのブーツのようだ。紐を締めたら足首は曲がらない。テレマークブーツよりも硬く感じる。そして、ステップインのためにソールに金具が仕込まれているので、ノーマルブーツよりも20mm〜30mmはソールが厚い。当然、板から足裏が遠くなるので、「足裏感覚」が損なわれるのは否めない。
けれども、Vector Glideのスノーボード、ジニアスとの相性という点では、決してステップインであることに問題を感じない。Tripper ABが壊れているのでVUCでも古いストラップバインとノーマルブーツで滑ったけれど、特別、「足裏感覚」があって良かったとは思わなかった。
結局、今の自分が求めているのは「足裏感覚」ではないし、スノーサーフでもない。ピンテールの滑りに必要な道具でありさえすればいい。このことに気づけたことは、今回のVUCでの大きな収穫だったと思える。ミクはかわいいけど、ツインテールよりピンテールの方がいいw
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