高蔵寺ニュータウン夫婦物語
1年前に観た映画「人生フルーツ」がどうもしっくり来なかったので読んでみた。
人生フルーツの上映は、なんとシアターキノではまだ月1回のペースで続いている。驚異的なロングランだ。映画で描かれているほのぼのとした津端さん夫婦の暮らしに憧れる人が多いのか、驚くほど評判がいいみたいだ。でも、正直なところ、自分はこの映画がそれほどいいとは思わなかった。美しく描かれすぎているように感じたからだ。嘘くさくさえ思えてしまった。
スクリーンに映し出される二人の暮らしは、もう80歳を越えてからの「老後」の生活であって、そこへたどり着くまでの夫婦の姿は、馴れ初めこそ紹介されたものの、映画の中ではあまり描かれていなかったように思う。また、津端さんの建築家としてのニュータウン計画の仕事も簡単に触れられただけだ。それらを知らずに、年老いた二人の「スローライフ」にただ憧れていても、本質を見ているわけではない。そんな気がした。この夫婦には、きっとこの映画では十分に描かれていないドラマがあったにちがいない。
そこで、夫婦の歩みを詳しく知ることのできる本を探して辿り着いたのが、この「高蔵寺ニュータウン夫婦物語」だった。
高蔵寺ニュータウン夫婦物語 はなこさんへ、「二人からの手紙」/津端修一/津端英子【1000円以上送料無料】 |
初版は1997年。自分が読んだ第2版のちょうど20年前だ。第2版の著者プロフィールには、修一さんが2015年に亡くなったことがちゃんと書かれていて、まるでそのために第2版が用意されたように思えて寂しい。「人生フルーツ」や他の書籍の好評さを受けてなのかもしれないけど。
本の内容は、前半が英子さん、後半が修一さんが書いた文章になっている。前半の英子さんの文章は、書き出しは修一さんとの出会いから始まるけれど、時系列を追っている訳ではなく、章のテーマごとに時間はときどき前後するので、慣れるまではちょっと混乱した。
読んですぐに驚いたことがある。仕事でも遊びでも破天荒な修一さんに、英子さんはよく付き添っていられるものだと。造り酒屋のお嬢様として裕福な家庭で育てられたのに、修一さんのヨットに稼ぎも消えて貧しい暮らしを質屋に通って耐え忍ぶ。なかなかできることではない。それだけ修一さんを信頼しているということなのだろう。
全編がほのぼのとしたエッセイのように思える英子さんの文章だったけれど、私立小学校の受験に対しての修一さんの厳しい批判が引用されると、この夫妻の本当の姿を垣間見た気がした。修一さんはきっとこういう人だろうという自分の予想が的中した気分。本の2/3ほどを占める英子さんの文章を読み終えるのを待たずに、英子さんとの関わりを通して修一さんの人柄が伝わってくるエピソードだった。
意外だったのは、てっきり高蔵寺ニュータウンにずっと住み続けていたと思っていたのに、修一さんの職場が移るのに合わせて、東京、広島にも住んでいた時期があったということだ。もちろん、その後は雑木林の家に戻るのだけど、当然ながら、高蔵寺ニュータウンに自宅を建てた頃からスローライフを二人で続けている訳ではない。英子さんこそ主婦として畑仕事もしていても、基本的には修一さんはサラリーマン。雑木の苗を植えてすぐにスローライフは始まらない。
孫娘のはなこさんへの思いは夫婦ともに強いようで、娘の家へ食べ物を作って送ったり、一生懸命だった様子だ。本のサブタイトルにまで、「はなこさんへ、『二人からの手紙』」と付けるだけのことはある。映画でも登場するドールハウスが、何よりそれを物語っていた。孫を可愛がる気持ちに関しては、他所と一緒だと思った。やっぱりおじいちゃん、おばあちゃんにとっての一番の楽しみは孫の成長だ。
本の後半になっていよいよ修一さんからはなこさんへの手紙になる。ヨットへの気狂いっぷりには呆然としてしまう。でも、海とは比べるまでもないけれど、生死に関わるという点では冬山の危険性もバカにできないので、一般の人にとっては、雪崩や遭難の危険と隣り合わせで遊んでいる自分もなかなかのキチガイに見えていることだろうw
肝心の修一さんの建築家としての仕事は、やっぱり高蔵寺ニュータウンの計画だったようだ。けれども、個人の力ではどうにもならない大きな力で計画が歪められていく様子を語る文章には、無念な思いと憤りがにじみ出ている。まちづくりという大きなプロジェクトの難しさでもあるのだろう。家を1棟建てるのとはわけが違う。
高蔵寺ニュータウンでの「住みよい地域生活を考える会」やクラインガルテン運動、「自由時間都市」など、修一さんは想像していた以上に活動的だった。しかも先進的で情熱的だ。常に理想を意識していて現実にも批判的だ。そして、一見、それらの考えや活動が英子さんとは関係がないようでいて、実は英子さんの暮らし方に思想的、哲学的なベースを与えつつ、夫婦でしっかりと価値観が共有されているように感じる。
二人はさまざまな苦労と長い年月の末にみんなが憧れるような生活を作り出した。この生活の表面的な心地よさに憧れて真似たところで、こんな生活は実現しない。過程が大事だ。それに、こうした生活を支える信念を持たねば続けることもできないだろう。
映画で消化不良だった思いは、この本のおかげでかなり改善された。でも、修一さんの自由時間についてはまだ続きがあるようなので、もう少し追いかけてみようと思う。
なつかしい未来のライフスタイル はなこさんへ、「二人からの手紙」続 [ 津端修一 ] |
| 固定リンク | 2






コメント