旅をする木
今ごろになって初めて星野道夫を読んでみた。
星野道夫はアラスカの写真が有名なので、東川町で写真展があったときに見に行ったり、札幌での講演会へも行った。といっても、星野道夫はすでに亡くなっているので、数年前の講演会は奥さんが講演したのだけど。
星野道夫はカメラマンでありながら、エッセイ、文章のファンが多いらしい。でも、なんとなく写真は見ていても、文章は敬遠していてこれまで読んだことがなかった。読んでみようと思ったのは、没後20年を記念したNHKの「旅をする本」というテレビ番組がきっかけだった。彼の文章がそんなに多くの人に愛され、読まれ続けているのだと知る。番組の中でもところどころフレーズが引用されるのを聞いて興味を持ち、読むことにした。
自伝的な要素もあるエッセイで、星野道夫のことを詳しく知らない自分には、彼がどのようカメラマンとなったのか、アラスカで生活するようになったのかも分かって面白い。それに、文章が読みやすくて上手い。本人も読書家だけあって、変に回りくどい表現もなくてシンプルだ。感じたことがそのまま綴られているように思える文章だった。
当時のインディアン・エスキモーが抱える問題も、彼の友人たちを通して伝えられていた。伝統的生活からの変化にともなうアイデンティティー喪失、その結果としてのアルコール依存症や自殺。アラスカの自然に迫る、原油など資源開発による環境破壊の危機。星野道夫は強い言葉を使っていないけれど、写真からイメージしていた大自然が広がるアラスカが、実はかなり大きな問題に直面していたのだと思い知る。それぞれのエピソードは時系列にはなっていないし、そのときどき過去を遡るし、本が出版されてからも、彼が亡くなってからも20年以上が経っていて、なんとなく他の世界での出来事のようにも感じてしまった。
アラスカにはもちろん行ったことはない。スキーやスノーボードの雑誌やムービーでは必ずと言っていいほどアラスカが登場しているけど、今はどうなっているのだろうか。星野道夫の文章で今のアラスカを読んでみたかった。
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