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「那須雪崩事故の真相」でも結局まだ分からない真相

今年の講演会では著者の阿部幹雄さんが事故事例として「那須雪崩事故の真相」講演するようなので、簡単に感想をまとめておく。

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はじめは立ち読みで済ませようと思っていたのだけど、あとがきの内容に共感して買うことにした。次のように書かれていたからだ。

登山を競技にする必要があるのか。今、自然と触れあい、山に登りたいと思う若者が増えている。高校山岳部の活動目的が競技や自然に触れあうなど、多様であっても良いだろう。競技を重視するなら、スポーツクライミングやボルダリングを活動に取り入れることもできる。

後半については賛同しかねるが、「登山を競技にする必要があるのか」というのは、以前から思っていたことだ。

山岳部のある高校があり、何やら登山の競技で学校間で競い合うということをテレビか書籍などを通しては知ったときに違和感を覚えた。なんで登山で競争しなくてはいけないのかと。

自分が山へ登るようになったきっかけは友達に誘われたからだったけれど、山道を歩くことや草花や景色を見ながら登る日常とはちがう体験が楽しいと感じた。自分から登ろうとはしなかったけれど、誘われればカメラを持って出かけて花や景色を撮るようにもなる。距離や時間に挑戦するわけではない。山にいる時間を楽しんだ。冬山を滑るようになってからは、地形や植生の把握も兼ねて夏山を登るようにもなる。帰宅してから花の本で調べるのも楽しく、ナキウサギやシマリスなどの山の生き物と出会うのも楽しみで、標準的なコースタイムよりも時間がかかる方が多いくらいだ。そんな登山をしていたものだから、余計に山岳部の競技に疑問を感じた。山岳部なんかなくても登山は楽しめる。

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登山に限ったことではない。東川町は写真で町おこしをするようになって、写真甲子園というものをはじめた。野球のように高校生が写真の優劣を競う。どうして大人は子供になんでも競わせようとするのか。写真をはじめ芸術分野にも音楽、絵画などにさまざまなコンクールが存在して、優勝者は注目されてその後のキャリアにつなげていったりする場合がある。けれど、芸術は本来、表現のための創造であって、評価されるための作品制作ではないはずだ。

甲子園にはほとんど常連校ばかりが参加し、成績を残した有力選手はプロへ進む。もはや高校生のスポーツの祭典ではない。あらゆるスポーツについておそらく同じ状況だろう。オリンピック選手が子どもの頃に「オリンピックに出たい」と夢を何かに書いていたり話していたことを夢の実現だと騒いだりするけれど、スポーツはオリンピックがなければ意味がないのか。芸術もスポーツも競争に支配されてしまっている。

社会自体が競争原理に支配されてしまっていることが大きな原因であるのはまちがいないが、教育者の多くがその社会に迎合してしまっているのは非常に残念であり、問題でもある。競争でしか子どものモチベーションを引き出せない。けれど、本来、学校において育むべきなのは協調、協力であって、個人ではできないことも連帯することで実現できるということを学ぶべきだ。

ところが、そうした教育や学びは国家の運営にはとても都合が悪い。国民はバカで御し易いにかぎる。協調や連帯などもってのほか。バラバラで小競り合いをしている方がちょうどいい。ほんのひと握りの優秀な人間が残りを鼻先で動かせばいい。そうした状況に抵抗できないのが今の学校教育だ。結果的に、今回の事故を引き起こし、7人もの高校生の命を奪った。そう思う。

ところで、肝心の「真相」はというと、本書の帯には「事故の全貌が明らかになる」と書かれているが、「しかし、科学的な裏付けが必要だ」とか「真相へ迫ることができた」とか、「真相が、そこに隠されているという予感を抱く」とか、結局はまだ分かっていないらしいw

そんな真相を究明し、責任を追求しようとする阿部幹雄さんの姿勢に対して、今年の4月、ちょうど阿部さんが製作した番組「那須雪崩事故の真相」が放送される前後、日本雪崩ネットワーク(JAN)によるSNSへの投稿は、あたかも番組に対する抗議と感じるような内容だった。

北海道では阿部幹雄さんが代表を務める雪崩事故防止研究会や北海道雪崩研究会とならんで、JANも雪崩事故を防止するために活動を行う団体だと認知されていた。これらの団体が主催する初学者を対象とした実技をともなう講習会に、過去に参加している。10年近く前になるが、参加した当時、JANの講習内容は十分に先進的で、カナダで行われている雪崩事故防止の研究成果を積極的に取り入れていると感じた。

ところが、最近は、JANの講習が山岳ガイドの資格と関連を持つようになったのか、なんとなく「雪崩ビジネス」の臭いが鼻につくようになった。常に背後に死者の魂を背負っているように思わせる阿部幹雄さんが正義感で行なっている活動とのギャップを感じる。そんなタイミングでの今回のSNSへの投稿。背景のことはよく知らないけれど、残念なできことだった。

自分が雪山を登って滑るのは楽しいからだ。まれにパウダー争奪戦の様相を呈することはあれど、競争が目的ではない。安全に協力して楽しむ。楽しめることは幸せだ。

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